ライフ

若者の精子減少には「気持ちの問題」が影響と落合信彦氏指摘

 まだ日本がバブル景気の中にあった時代、『狼たちへの伝言』を上梓して若者を厳しく叱咤激励した落合信彦氏。氏が、現代の若者に、再び喝を入れる。

 * * *
 私は世界中の紛争地で取材を重ねてきたが、今の日本人が見習うべき若者たちにたくさん出会ってきた。

 戦場に立つ若者たちは、明日の朝起きた時に自分の命があるかもわからない。それでも、いや、だからこそ、生きることに対するエネルギーと、自らの国、民族に対する誇りに溢れていた。

 例えば、私が出会ったイスラエルの戦車部隊のキャプテンは、まだ26歳だった。大学院を出てすぐに徴兵されたこの若者は、私に、「本当は百姓になりたいんだ。キブツに入って平和に暮らしたい」と本音を吐露した。だが、この心優しい若者はその後に、「それでも、個人の幸せより、国家の安泰、民族の永続性のほうが重要だ」と続けた。

 彼の美しい瞳は、今でも脳裏に焼き付いている。私は毎朝起きると必ず、「This is the beginning of the last day of my life(これは私の人生最後の日の始まりである)」と、声に出して言うことにしている。紛争地で出会った若者たちと同じように、「今」を必死で生きる気持ちを忘れないでいたいからだ。

 昨年、チュニジアから始まった「アラブの春」にしても、民衆蜂起の端緒となったのは政府の腐敗と失政に怒った26歳の若者の抗議の焼身自殺であった。その怒りに、同年代の若者たちが続いた。

 旧ソヴィエトでも、バルカン半島でも、国を思う若者たちが社会に変革をもたらしてきた。そして、彼らは明日死ぬかもしれない現実の中にいるのに、「この戦争が終わったら、どんな仕事をしたいか」という夢を語り合う。生きることに対する執着があるのだ。

 生存力とは本能そのものだ。生き延びて、子孫を残そうと考えるのが生き物の本質だ。最近、日本で若い世代の精子の数が減っているという。環境ホルモンや食べ物の変化が原因とされているが、私はどこかで「気持ちの問題」の影響があるように思えてならない。

 日本は高度成長からバブルへと進み、経済だけは進歩した。だが、その他の大切なもの文化や伝統や歴史や誇りを置き去りにしてきた。「1億総財テク」に走ったのである。そして不況に陥り、拠って立つべきものが何もなくなってしまった。結果、内向きで利己的な若者ばかりになっている。この損失は、決してGDPでは測れない。

 今の危機は、経済の危機であり、政治の危機である。しかし、その奥底にある本質が日本人の「精神の危機」であることを強く認識すべきだ。

※SAPIO2012年7月18日号

関連キーワード

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン