国際情報

中国のブログ 贈収賄続々告発も民主化にはつながらない事情

 ソーシャルメディアの発達は中国においても決して無視できない。微博と呼ばれるミニブログには、市民による体制への告発も相次ぐ。だが、それがすぐに民主化に結びつくかとなると話は別だ。ジャーナリスト・富坂聰氏が指摘する。

 * * *
 チュニジアに始まり中東全域に波及した独裁政権打倒の波、いわゆる「中東の春」がソーシャルメディアで結ばれた若者たちが中心となって起こした革命であったことはいまや周知の事実だ。

 同じように共産党支配が続く中国でもソーシャルメディアが社会変革に果たす役割が期待されたが、いままでのところ「民主化デモ」の呼びかけがいくつか見られただけで、いずれも不発に終わっている。

 では中国ではソーシャルメディアの影響は限定的だったと結論付けられるのだろうか。

 実はそうではない。むしろ大きな影響を社会に与えている。しかも政治に対してもだ。

 中国でいま人々に最も影響力を持っているのは微博(ミニブログ)である。この微博が果たした役割で最も大きいと思われるのが、民意の力を高めたことだ。なかでも地方においては権力の監視役として強い力を発揮する場面が目立っている。今年も工場の建設や産廃処理場、発電所の建設に対して住民による大規模な反対運動が起きて計画がとん挫するという事件が相次いだが、そのすべてが微博を入り口として大きな住民運動の波へと発展したパターンだった。

 また権力の監視役としては、地方の権力者が高級品を身に付けていたり、高級な嗜好品、または高級レストランで食事をしている姿が目撃されれば、市民がすぐに携帯で写真を撮ってアップする流れもできている。こうした微博上での告発を受けて事件化した例も枚挙にいとまがなく、いまや贈収賄事件の端緒としては最大の役割を果たすようになっているのだ。

 逆に地方の幹部にとっては常に監視の目にさらされるという従来にはなかった肩身の狭さに直面することとなったのである。こうした地方における“民高政低”の傾向は、ものすごい勢いで現在も拡大し続けているのである。

 ならば中国においても、いずれ近い将来に民主化の波が北京を襲い、中国版ジャスミン革命が起きるというのだろうか。

 実は、これも正しくない。

 すべてのメディアが当局の管理下にある中国において、微博もその例外ではないからだ。但し、ここで重要なのは微博をコントロールするツールが首都・北京にしかないという事実である。

 微博の管理――政府に都合の悪い書き込みを削除するなど――についていえば、すでに地方レベルにおける政府批判や反対運動の呼び掛けは「ほぼ無制限」(北京の都市報の記者)のレベルになってきているというから、それはそれで大きな変化という他ない。いまや地方政府は微博のなかで湧きおこる民意の前にほとんど無力で、唯一「五毛党」――一回五毛=五角で政府を擁護する書き込みを行うネット評論員――を使って反対意見を載せたり弁解するしか対抗手段を持たなくなっているのだ。

 ただ前述したように、それはあくまで地方に限っての話なのだ。中央は相変わらずメディアの大きな蛇口を握っているため、民意が襲いかかるのは地方政府だけという枠をはずれることはない。

 この現実についてメディアと政治の関係を研究する北京のジャーナリストは、

「中国の微博は確かに民意の力を高めました。しかしその一方では中央の力をさらに高める作用ももたらしたのです。そしてこの現実が中国社会にどんな変化をもたらしたのかといえば、それは地方政府だけを沈没させるという働きなのです。だからいま中国の地方は元気がないですよ。下からは民意に突き上げられ、地方と中央の関係では中央集権が増進しているわけですからね。このことが今後どのように中国社会を変えていくのかについては明確なことは言えませんが、地方の活力が失われた国の経済が上り坂になるとは思えませんよね」

 と語るのだ。

 凄まじい勢いで起こる民意の台頭。その裏で進む過度な中央集権の現実。中国が生み出したこの独特のねじれが、次の火薬庫となることが懸念されているのだ。


関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン