国内

脱原発デモ 故郷に住めない人がいる限り運動の火は消えぬ

 毎週金曜日の恒例ともなった脱原発・官邸前デモ。一体このデモはどのような影響を日本に与えるのか。外交、霞が関、メディアを知り尽くす孫崎享(まごさき・うける、元外務省国際情報局長)、高橋洋一(元内閣参事官、嘉悦大学教授)、長谷川幸洋(ジャーナリスト)の3氏が、官邸デモの行方を論じあった。

長谷川:気になるのは、7月29日の国会包囲からデモの様子が変わる懸念もある。全共闘とか、全学連とかの旗が出てきて、「車道を空けろ」と議事堂前の車道を占拠した。人々はデモを乗っ取ろうという組織的な動きに触発されたかもしれない。私も学生運動やっていたからよく分かる(笑い)。彼らは挑発行動を徐々にエスカレートするはずです。そうなると当局がデモを潰す口実にされかねない。

高橋:当局が出てくる前に、一般の人が参加しなくなる。一般の人がいなくなれば、デモは特定のプレッシャーグループ(反原発団体)の運動になってしまう。

孫崎:私はそれでも国民の行動は消えないと思いますよ。官邸デモというのはほんのひとつの表現であって、すべてではない。60年安保は、ピークの時に新聞7紙が「暴力革命を排し議会主義を守れ」という異例の共同宣言(※注)を出した結果、騒動が収まり、国会前から一般人が消えて潰れてしまいました。

 だけど今回は、官邸デモがなくなっても、国民は別の方法で意思を表明すると思う。デモだけが表現する手段ではない。

長谷川:60年や70年の安保と決定的に違うのは、福島原発事故で国土の3%が事実上失われ、放射能で故郷に住めなくなった10数万人の“さまよえる人々”が厳然と存在していること。この人たちがいる以上、運動の火は絶対消えない。メディアも見捨てない。

――60年安保は岸内閣を倒した。ならば、今回の行動も政権を倒すところにつながっていくのか。

高橋:どこまで運動が広がるかにもよるが、民意の受け皿はなくはない。民主、自民以外の政党や政治家でしょう。それは橋下徹(大阪市長)かもしれない。橋下さんたちがエネルギーをどうやって吸収していくか次第でしょうね。

孫崎:60年は打倒岸内閣という政治目的があって動いていたけれども、今は個人が再稼働反対をいわなければならないという自己表現でやっているから、最終的に政権を倒すとか、ある種の政治目的を達成しなければならないとまでは考えていないと思う。

 しかし、一般の国民が参加することによって、これまで黙っていた人々に影響を与えていくわけです。私たちもそうでしたが、反体制の意思表示をすることには恐さがある。それが今回のデモで、恐くない、意思表示していいんだ、というきっかけになった。

※注/1960年6月17日、新聞7紙が「その理由のいかんを問わず、暴力を用いて事を運ばんとすることは、断じて許されるべきではない」との7社共同宣言を発表。宣言を書いたのは、対米終戦工作に関わった経験を持つ笠信太郎・朝日新聞論説主幹だった。

※週刊ポスト2012年8月17・24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン