ライフ

日本人は年間平均84食分のカレー平らげるとの調査結果あり

カレーライスは日本人の国民食

 この季節に敢えて食べる人も多い、「カレー」。汗が噴き出す感じがたまらない。しかしインド発の料理がなぜ、「国民食」とまでなったのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
 日本人はカレーが大好きだ。カレーライスのバリエーションだけでもカツカレーやハンバーグカレー、ドライカレーのほか、牛丼との「あいがけ」など無数のメニューが思いつく。他の料理との交流も盛んで、そば・うどんなどのカレー南蛮、カレーパン、コロッケ、鍋、ラーメン、ピザ……。ご当地グルメでも北海道スープカレー、富山ブラックカレー、岐阜県・奥美濃カレー、北九州の焼きカレー、宮崎のチキン南蛮カレーなど、ありとあらゆる「カレー」が存在する。

 2006年のカレー生産量をベースにエスビー食品が算出したところによると、日本人は年間平均で「カレー」約84食分を平らげるという。老人から乳幼児まで含め、月平均で7食分のカレーを食べているというのだ(外食分も含める)。例えばもうひとつの手軽な「国民食」、インスタントラーメンの年間消費量は1人44食分(世界ラーメン協会調べ)。

 あらためて言うまでもないが、敢えて言う! カレーは日本の国民食である!

 さて、インド生まれ、イギリス経由で明治時代に日本に入ってきたと言われるカレーは、なぜこれほどまでに日本人に受け入れられたのだろうか。

 人間の舌が感じる基本味は、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5つと言われていて、その「旨味」に関連する物質を発見してきたのが日本人である。1908年に東京帝國大学の池田菊苗がだし昆布からグルタミン酸を発見。その後、かつお節のイノシン酸、しいたけのグアニル酸など、次々に旨味成分を発見してきた。長く「出汁」文化が定着していた日本人は「基本味」の構成に敏感だったとも考えられる。

 しかし、カレーの主構成要素である「辛味」は5つある基本味には含まれていない。味覚には舌の味蕾細胞だけでなく、口内の「感覚細胞」も影響する。辛味は温度や痛みを認識する「温痛覚」で捉えられる。例えば唐辛子なら、辛味成分のカプサイシンにより「熱い」「痛い」と感じる。激辛カレーに対して「痛い」という表現をする人がいるが、あれは正しい反応なのだ。さらに「香り」も味わいの構成要件として欠かせない。

 カレーのスパイスに含まれる「温痛覚」に訴えかける「辛味」と、その渾然一体となった「香り」は明治時代の日本人にとって新鮮なものだったろう。しかもターメリック、唐辛子、生姜といったカレー粉の基本スパイスは体を温め、食欲を増進させる。身体にダイレクトに訴えかけてくる。

「味覚」や「身体への効果」において、「カレー味」は日本人に長く親しまれてきた「旨味」と競合しなかった。そしてどん欲な日本人は「旨味文化」との相乗効果も生み出した。カレーの具に「旨味」がふんだんに抽出できる肉や野菜を使い、味わいに深みを加えた。そればかりか、他のありとあらゆる料理との組み合わせを試し、合うことがわかると新しいメニューとして定着させていった。その様子は、ある意味海外のレストランでステーキを出されたとき、「醤油ないの?」と聞く、日本人の図々しさにも似ている気もする。

 北海道・室蘭市では「カレーラーメン」がご当地グルメとして定着し、新潟県の一部地域では「唐揚げ」と言えば、カレー味が当たり前。日本人にとって、カレー味はかけがえのない味わいであり、カレーは食卓に欠かせない調味アイテムとなった。

 もはやカレーは第二の醤油とも言える、貴重な調味料である。

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン