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日本企業続々撤退する中国 賃金上昇と権利意識の暴走リスク

「誤りを認めない」「自己中心的」「ルールより情実優先」など、独特の中国人気質や文化に日本企業が悩まされたエピソードは数多い。最近では中国進出したメーカーや流通業者が撤退や生産縮小の動きを見せている。中国での事業展開に新たなリスクが顕在化し始めている。

『今、あなたが中国行きを命じられたら』(ビーケイシー刊)の著者で、中国ビジネスに詳しい高田拓氏によれば、撤退・縮小の背景には3つの要因があるという。

 第1は「人件費の上昇」。12年に入ってから中国政府は最低賃金を平均10%以上、内陸部では20%以上も引き上げた。第2は「市場競争、価格競争の激化」。外資系企業の優遇税制廃止と相まって、利益は減る一方である。第3は「労働者の権利意識の高揚」。実はこの“権利意識”の問題が近年、大きくクローズアップされるようになっている。

 中国では労働者の就業権利保護などを定めた「労働契約法」の施行(2008年)以来、賃上げに関する労働争議が頻発している。さらに、中国からの撤退に際してはより深刻化している。代表的なのが、北京松下電子部品有限公司で起きた労働争議(2009年)の事例だ。同社は社員の70%をリストラする計画を立て、法定以上の補償金を支給すると通達した。

 しかし、不満を持った従業員約600人が日本側総経理(社長)らを6時間にわたって軟禁。その後、工会(労働組合)の上部機関が仲裁に入り解決したが、計画よりも多額の撤退費用が必要になったとされている。

「解雇となれば『過去の人事が不当だ』などと言い出して少しでも多額の補償金を得ようとする。そればかりか、会社に報復するケースすらある。降格人事や配置転換の時でも、それまでアクセスできた情報を制限しなければ、機密情報が持ち出される可能性があります。彼らにとって会社は金儲けの道具にすぎないのです」(高田氏)

 さらに、労働者としてだけではなく、「消費者」や「住民」としての権利意識もまた、リスクとなり始めている。

 中国では3月15日を「消費者権益の日」と定め、毎年大々的な報道キャンペーンを張るが、近年は、権利意識が高じてクレーマー化するケースが生じている。

「過去には、偽物と知って商品を買い込み、企業へのクレームで倍額の賠償金をせしめ、ひと財産築いた王海という人物が英雄視されたほど。現在の中国では訴訟費用が安くなっているので、一つのクレームを軽視すると容易に訴訟に発展します。もし、クレーマーの知人にメディア関係者がいれば、徹底的に叩かれることになる。メディアの中には“ゴロ”がいて、企業に対して『記事を止めるから対応せよ』と金を要求してくることもあります」(高田氏)

 一方、住民の環境意識の高まりを見せつけたのが、この7月に起きた王子製紙に対するデモだった。同社は江蘇省南通市の工場で排水管の設置工事を計画していたが、住民の間で環境汚染への不安が高まり、地方庁舎前に5000人が集まるデモに発展した。

 中国経済ジャーナリストの莫邦富氏はこう語る。

「中国では、生活環境に対する意識が非常に高まっている。たとえば、上海政府は14年までにリニアモーターカーを杭州まで延伸する計画だったが、沿線住民の反対で宙に浮いている。今までなかった事態です。おそらく王子製紙の計画に問題はなかったのでしょうが、政府に許可を取るだけで住民に十分な説明をしないと、今後も同じような問題が起きるでしょう」

 もはや中国は“安価な工場”どころか、“簡単にモノが売れる巨大市場”でもなくなりつつある。しかし、こうしたリスクを避ける海外資本の撤退が本格化すれば、痛手を受けるのは他ならぬ中国自身だ。日本企業の中国進出を阻んできた様々なリスクは、中国自身のリスクへと変化し始めている。

※SAPIO2012年9月16日号

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