ビジネス

証券会社 大口投資家ばかり優遇し、一般投資家はゴミと考える

 株で勝つのは難しいといわれるが、唯一絶対に儲かる方法が事前に内部情報を入手し売買するインサイダー取引だ。そして外国人ながらもインサイダー情報で大儲けしたアメリカ人男性がいる。

 その男性の名前はエドワード・ブローガン、53歳。日本の証券界で最も知られたヘッジファンドマネージャーの1人で、彼が運営するシンガポールのファンドは日本株の売買で圧倒的な力を持っていた。

 しかし、彼は6月29日、「増資インサイダー」の疑いで証券取引等監視委員会(SESC)から課徴金の支払いを命じられ、その後、日本から姿を消した。

 アメリカ人ながら流暢な日本語を操るブローガン氏は、外資系証券会社を渡り歩いた後、2000年に米大手ヘッジファンドの傘下の投資助言会社「ジャパン・アドバイザリー合同会社」のトップに就任。年収は数十億円、資産は数百億円にのぼるという。

 ブローガン氏がSESCの摘発を受けたのは、上場企業「日本板硝子」にまつわる「増資インサイダー」だった。2010年8月20日、増資発表の4日前に大量の「空売り(*注)」を行ない、約1600万円を不正に儲けたのだという。

 増資インサイダーとは、簡単にいえば企業の公募増資情報を利用したインサイダー取引のことだ。企業が増資すると発行株式総数が増え、1株あたりの価値が目減りするため、株価が下がりやすい。そこで企業が増資を発表する前に空売りし、発表後、株価が下がったところで買い戻せば、その差額分が利益となる。

 今年春から夏にかけて、こうした増資インサイダー事件が5件続いて摘発された。「みずほフィナンシャルグループ」や「国際石油開発帝石」、前出の「日本板硝子」の増資では、いずれも野村證券が情報漏洩に関与し、強い批判にさらされている。

 SESC幹部が憤る。

「証券会社では、インサイダー情報が漏れないよう、投資銀行部門と法人営業部門の間に“チャイニーズウォール(万里の長城)”と呼ばれる社内情報の壁が設けられなければならない。

 野村は2008年にM&A(企業の合併・買収)情報でインサイダー取引を行なった社員が逮捕される不祥事を起こし、壁の強化など防止策を打ち出していた。ところが野村が6月29日に発表した調査報告書では、この壁が崩壊し、組織ぐるみで情報漏洩を行なっていたことが明らかになった。

 たしかにインサイダー取引が重い罪ではなかった1980年代、証券マンは社内に落ちていた情報で個人的に株の売買をして稼ぎ放題だった。だが、そんな低いモラルのままなのは世界でも日本の証券市場だけ。断じて許すことはできない」

 東京証券取引所は、2009年以降に公募増資が公表された1部上場銘柄の公表直前1日の売買高と、それ以前の1か月の平均売買高を比較して、増加率が高かった20銘柄を民主党に報告した。

 つまりインサイダー取引が疑われる増資案件のリストである。前出の日本板硝子などに加え、全日空(公表日は2009年7月と2012年7月)や、りそなホールディングス(2011年1月)、NEC(2009年11月)などの名前が並ぶ。摘発された野村の3件は氷山の一角にすぎないのだ。

 一部の投資家がインサイダー取引で得た巨利は、その他の大多数の一般投資家の犠牲の上に成り立つ。『インサイダー取引で儲ける人たち』(アスペクト刊)の著者・高島ゆう氏がいう。

「証券会社は大口投資家ばかりを優遇し、一般投資家はゴミと考える。100万円投資する一般投資家が100人いても1億円にしかならないが、大口投資家なら1人で数億円、数十億円という投資が行なわれ、莫大な手数料が入る。

 どちらに“とっておきの情報”を与えるか――。証券会社は当然、自分たちのメリットを考えて行動する。誤解を恐れずにいえば、テクニカルやファンダメンタルズの分析などのテクニックでは儲けられない。一寸先は闇の投資の世界で、確実に儲けられるのはインサイダー取引だけなのです」

【*注】空売り/株価の下落を予想して、証券会社から株を借りて市場で売却し、その株が値下がりした時点で買い戻し、その差額で利益を得る投資方法のこと。

※週刊ポスト2012年10月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン