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大前研一氏 ソニーのデジタル注力は世界の地殻変動を不理解

 ソニー、パナソニックをはじめ、いま日本では大リストラ進行中だ。だが、リストラやコストダウンでは乗り切れないほどの“地殻変動”が、世界では起きていると大前研一は指摘する。以下、その地殻変動について氏の解説である。

 * * *
 電機メーカーや半導体メーカーが総崩れとなった日本では、大リストラが進行中だ。東京商工リサーチによれば、今年の主な上場企業の希望退職者や早期退職者の募集・応募は、8月30日現在で50社・1万5000人超に達するという。

 個別企業の募集・応募人数は、半導体大手ルネサスエレクトロニクスの5000人を筆頭に、NECの2400人、シャープの2000人(2014年3月末までに1万1000人)と続く。それ以外にも、ソニーは国内外で1万人の削減、パナソニックは本社社員7000人のうちの大多数を削減する計画となっている。

 結局、日本企業は各社とも、カンナで材木を削るように全体的に少しずつ人員を削減して凌ごうという姿勢なのだ。しかし、私にいわせれば、いま世界で起きているビジネスモデルの“地殻変動”は、一時的なリストラやコストダウンで乗り切れるものではない。

 バブル崩壊以降、日本企業は「選択と集中」を金科玉条としてきた。薄型テレビのパナソニックも液晶のシャープも、つい最近までそうアピールしていた。しかし、それが今は逆に自分たちの首を絞める結果になっている。日本企業の「選択と集中」は、どこが間違っていたのか――その反省と総括なしには経営戦略を描けないはずだ。しかし、今なお従来の価値観のまま迷走を続ける企業が多い。

 わかりやすい例がソニーだ。同社は9月中旬、デジタルカメラの新モデル「α99」「サイバーショットDSC-RX1」を発表し、本格一眼とミラーレス一眼のレンズ交換式デジカメで2012年度に世界シェア15%を目指す(2011年度は11%でキヤノン、ニコンに次ぐ業界3位)という方針を打ち出した。デジカメを今後のエレクトロニクス事業の中核の一つと位置づけ、このところ市場が拡大している一眼デジカメに高付加価値製品を投入してシェア拡大を狙うのだという。

 だが、今ごろそうした事業戦略を発表すること自体、ソニーは世界で起きているビジネス新大陸の地殻変動を全く理解していないことを如実に示していると思う。

 私は2000年に『THE INVISIBLE CONTINENT』(見えない大陸/邦訳『新・資本論』東洋経済新報社)を書き、これからのビジネスでは「富はプラットフォームから生まれる」と説いた。プラットフォームとは「共通の場」を形成するスタンダード(標準)のことである。

 たとえば、言語は英語、PCのOS(基本ソフト)はマイクロソフトのウィンドウズ、検索エンジンはグーグルが世界のプラットフォームだ。それに加えて今は、クラウドコンピューティングやSNSを含めたネットワークという要素が不可欠になった。つまり、ビジネスのトレンドは根本的に変わり、もはや単体としてのハードウェアが富を生む時代は終わったのである。

 その象徴は、日本企業が磨いてきたデジカメやポータブルオーディオレコーダーといった単体のハードウェアの技術が、すべてスマホやタブレット端末の画面上のアイコンになってしまったことだ。個々の“デジタルアイランド”が合体し、スマホやタブレット端末という“デジタル大陸”に収斂されたのである。

※週刊ポスト2012年10月19日号

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