国内

マイルドセブンの新名称メビウス 他の候補名が160個あった

「マイルドセブンの名前が変わると聞いた時は、社内にも驚きが広がりました」

 日本たばこ産業(JT)社員の率直な声だった。社内にすら極秘のプロジェクト。報道発表を聞いて、「えっ」と耳を疑った人が日本中にいたはず。

 8月8日、JTの小泉光臣代表取締役社長は新ブランド名『MEVIUS(メビウス)』について、こう発表した。

「世界市場へ向けて『マイルドセブン』を飛躍させるために、グローバル戦略の一環として名前を刷新することにしました」

 ご存じ『マイルドセブン』は国内1位のシェア。たばこ国内販売量の約3割を占めるガリバーブランド。そのブランド名を、来年2月から変えるというのだから……。

『メビウス』という響きを耳にした時、私の頭の中に神秘的な輪っかがポカリと浮かんだ。メビウスの輪。それくらいスリリングな名称変更劇。ただしMEVIUSの綴りは、“メビウスの輪”とはちょっと違うらしい。

「MILD SEVENからMとSを継承し、進化を意味するEvolutionからEVをとり、IとU(You=お客様)を加えた造語です」

 たばこ事業本部M&Sグループブランド企画部ブランドマネージャーの鈴木重太郎氏はそう解説する。

「そこには先進、洗練、挑戦、継承という価値をこめました」 過去を振り返れば、日本車が国内市場から世界市場へと進出する際は、海外向けのネーミングにして羽ばたいていった。アニメでも、「アトム」は「アストロボーイ」に変身して飛び立った。

 しかし、今回の取り組みは、これまでとは根本的に違う。国内で35年間続いてきたマイルドセブンは、馴染み深い長寿定番ブランドとして深く根を下ろしている。それを変えるのだからJTにとっても大チャレンジ。いや、日本のマーケティング史上、前例のない挑戦と言えるだろう。

「たしかに社運をかけるプロジェクトと言っていいのかもしれません」

 と鈴木氏も認める。

「新ブランドのプロジェクトは、2年ほど前にスタートしました。そのねらいを一言で言えば、『マイルドセブンのさらなる進化』。既成概念にとらわれず、一からブランドを問い直す。それが我々に与えられた課題でした」

 世界市場で大きく飛躍するためには、何が必要で、何が足りないのか。国内外で大規模な市場調査に着手した。味、香り、パッケージ、すべて例外なく検討対象にした。『マイルドセブン』という英語圏に浸透しにくい造語から、新名称へ転換することが決まった。候補は160ほどあがってきたという。

「専門家が選んだ名前から社員の提案まで、実にいろいろな名前がありました。市場調査の結果を加味しつつ、さまざまな角度から検討を重ね、候補を絞っていったのです。結果としては『マイルドセブン』よりも『メビウス』のほうが先進的でプレミアム感を伝えるという確信に至りました」

「味と香り」はどうか。

 マイルドセブンはスムース&クリアがコンセプト。スムースでクセのない味わいが特徴だ。世界市場の中においても、日本らしい繊細な個性が確実に表現できている、という結論が出た。名前は、変わる。しかし味は、変えない。それだけで十分なのか。他にも重要な要素はないか。

「何気なく手にするパッケージは、実は商品の本質を表現し伝えるとても重要なツールです」と鈴木氏は言う。

「そこで、パッケージの触覚、質感、立体感に特にこだわりました」

 メビウスの箱を手に取ると……あっ、と息をのむ。無数の粒の出っ張りが私の指先を心地よく刺激してくる。

「ニスを盛り上げた小さなドットを表面につけて、立体感を表現しています。しかも粒の並び方は均一ではなく、グラデーションのようなデザイン的変化をもたせました」

 感覚にアプローチする、細やかで凝った仕掛け。これもプレミアム感を表わす工夫だ。

「言葉や説明ではなく、指先から直接、変わったのだということを伝えたい。家電や自動車などで活用されている質感の加工、『加飾技術』を駆使しました」

 さらに色の彩度やループ状の視覚デザインなどパッケージは細かく作り込まれていった。新・旧、2つを並べてみると面白い。『メビウス』のパッケージは、たしかにマイルドセブンの世界観を継承している。そうでありつつも、感触、光沢、ネーミングの響きは新鮮。『メビウス』の新世界が私の五感に語りかけてくる。

※取材・文/山下柚実

※SAPIO2012年11月号

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