国内

ノマドブーム かつてのフリーターブーム連想させるとの意見

 最近、ノマドという言葉が流行っている。ダイヤモンド・オンラインではノマドをテーマにしたインタビュー連載が掲載され、佐々木俊尚氏、イケダハヤト氏などが登場している。だが、そこにも登場した人材コンサルタントの常見陽平氏はやや否定的な論調を持つことで知られる。同氏にノマドについて聞いた。

 * * *
 今年4月、私が渋谷のカフェに入ったところ、隣で仕事をしていた若い男がパソコンの前で大声で話していたので静かにするよう注意したら口論になった。男の反論がふるっていて、「私はイギリスとスカイプ(インターネット電話)でやり取りしている」と言ったのだ。

「スカイプ」で「イギリス」なら他人に迷惑を掛けてもいいのか。店長に相談すると、信じられないことに私が席を移るよう求められた。カフェではいつから仕事をしている人間が最優先になったのか。最近、カフェにノートパソコンを持ち込んで仕事をする人をよく見かけるようになった。それもスーツ姿の会社員ではなく、カジュアルな服装でお洒落メガネの若者が中心で、半日くらい居座ってガッツリ仕事をしていたりする。

 ネット社会では彼らを「ノマド」と呼ぶ(厳密にはその一類型だ)。本来の意味は「遊牧民」だが、固定のオフィスを持たず、カフェやコワーキングスペース、あるいは共同で借りたシェアハウスを仕事場とする人々を指す。それを特徴づけるのが、渋谷(IT系企業が多い)、スタバ、MacBookAirで、完全装備の“オレってノマド”な若者を目にすることも多い。

 このノマドについて誤解があると思われる点は、何か企業社会を変える大きなうねりのように捉えられているところである。

 私なりにノマドを定義すれば、「時間・場所・組織の束縛から逃れて自由に働く人」のことだ。ただの自由業かと思いきや、ノマドライフの提唱者のひとりでITジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「会社員にもノマドはいる」と言い、精神的、ライフスタイル的に自由であればノマドと呼ぶようだ。とはいえ、実態としてノマドの主体は従来のフリーランスだ。

 職種もライター、デザイナー、イベントプランナー、コンサルタントなどであり、特に目新しいものはない。「ロハス」の実像が「お洒落な貧乏」だったのと同様、もともとある職業や働き方をノマドと言い換えただけに過ぎないように見える。

 ノマドが一般に知られるキッカケになったのは、今年春に『情熱大陸』(TBS系)が、ノマドワークの実践者として安藤美冬氏(32)を紹介したことである。彼女はセミナー運営などを手がける会社経営者であり、番組を見た限りでは何がどうノマドなのかさっぱりわからなかったが、現在もノマド提唱者としてご活躍だ。

 安藤氏と並んでノマド界で知名度が高いのが、独自のニュースサイトを手掛けているイケダハヤト氏。彼は「会社はオワコン(2ちゃんねる用語で「終わっているコンテンツ」の略)」「ノマドになったら年収が増えた」といった言動で目立っている。要するに、会社という組織はもう終わりで、これからは働き方がもっと自由になり、ノマドたちの個と個のつながりから新たな価値が生み出されていくというような主張だ。

 こうしたノマド礼賛者の言動をすべて鵜呑みにし、若者たちが無邪気にノマド化しているのだとしたら看過できない。私がノマドブームを危惧するのは、これがかつて見た光景にそっくりだからである。

 1990年前後にもてはやされたフリーターについて、当時、『フロムA』はこう定義していた。「既成概念を打ち破る新自由人種。敷かれたレールの上をそのまま走ることを拒否し、いつまでも夢を持ち続け、社会を遊泳する究極の仕事人」。こういう言葉に煽られ、バンドや演劇で成功するという夢を追いかけ続けたフリーターたちが、いま30代、40代の非正規雇用・低所得層の一部になっている。

 2000年頃には『とらばーゆ』が、「派遣で自由な暮らし」を提唱し、「サービス残業がない」「9時5時で帰れる」といった派遣のメリットばかり強調して煽った。しかし、今では派遣社員もその不安定なあり方が問題となっている。

 大卒でも正社員として就職するのが難しくなっているのは事実だ。そこに便乗し、あるいは経営環境の厳しさも相まって社員を働かせすぎるブラック企業も増えている。就職できない、あるいは仕事が辛いという若者が増えているなかで、ノマドというお洒落で甘い響きを持ちながら、実際はフリーターと変わらない不安定な働き方を奨めれば、同じ過ちを繰り返す。

 若いノマドワーカーのなかには、冒頭のスカイプ男のようにマナーを知らない者も多く、会社で何年か働いていればこうはならないだろうにと思わずにいられない。実力もないままノマドになってしまうと、仕事もろくにないという状態になる。

※SAPIO2012年11月号

関連記事

トピックス

“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン