国内

ネットで「悪の村」と指弾された上小阿仁村長が「いじめ」に反論

秋田県・上小阿仁村の中田吉穂村長

「悪の村」「村民全員が意地悪い」。診療所の医師が辞職するたびにネットでそんな風評を立てられて苦しんでいる村がある。秋田県中央部に位置する上小阿仁(かみこあに)村だ。なにが原因なのか、どのような被害が起きているのか。村長のインタビューを中心に、村の現状をリポートする。(取材・文=フリーライター・神田憲行)

 * * *
 上小阿仁村は人口約2700人、65歳以上の高齢者が人口に占める割合の高齢化率45%(秋田県の自治体で最高水準)。村民の年間平均所得は143万3000円、県下で下から2番目に低い。村の総面積の90%以上は山林原野だ。

 ことの発端は、この村で公募した村の診療所勤めの医師が、08年からの4年間で4人とも短期間で辞めていったことである。とくに2011年5月30日に2番目に辞めた女性医師に対して一部村民から言いがかりのようなクレームがあったことを、前村長が村の広報誌で紹介した。

《まったく「いじめ」と思われる電話もあるそうですが、このような不心得者は、見つけ出して、再教育の必要があるようです》
《このような不心得者は、わずか5~6人に過ぎないことを確認しております》

 その後も医師が辞職するたびに、「いじめがあった」とネットに書き込まれるようになった。

「ネットの書き込みを見て、村に『悪の村』とかメールや電話が掛かってきています。これはもういじめですよ。あんな思い込みの書き込みを本気になするなんて、ちょっとおかしいんじゃないか」

 上小阿仁村の中田吉穂村長(61歳)はそういって顔をゆがめる。

──しかし4年間で4人とも短期間で次々と辞めるというのは不自然ではないでしょうか。

中田:どうして? 体調不良であればしょうがないですよ。

──2番目の女性医師に関しては、前村長が広報誌で村民の「いじめ」のようなものがあったことを指摘しています。

中田:うん、その文章は重い。でも当時町議だった私はこの女の先生が辞めて帰られる前に1時間ほど話をしたのよ。「上小阿仁のことは忘れない」と言ってくださったし、「(広報誌で)本意ではないことを書き残されて、私としては悔やみきれない」と話されていたんですよ。

──この文章では「不心得者が5~6人」と具体的です。

中田:これは、これはよ……(首をかしげて)前の村長がどういう意味で書いているのか……。

──では中田さんは、辞めていく理由についてどのように分析されていますか。

中田:それは個別に、いろんな事情が重なっていると思います。たとえばこの女の先生は本当に熱心で、午前中に診療所の診察が終わると、昼休みに兼務している村の特別養護老人ホームに自発的に様子を見に行くような人なんですよ。そうすっと午後の診察開始が遅れることもある。待っている人はイライラしてっから、不満をぶつけることもあったんじゃないか。そういう忙しさとストレスから体調を崩されたんだと思います。心臓にペースメーカーを入れているような人だったから。

──そのあと2011年6月1日に来た3人目の40代の男性医師も、今年12年10月12日に、「水が合わない」と言い残して辞められています。

中田:それはたぶん気候なんですよ。このへんは天然の秋田杉の名産地で、シーズンは空が真っ白になるくらい花粉が舞う。鼻水が出たり大きなマスクしてたから「先生、大丈夫ですか」と聞いたら、「気候が合わない」とおっしゃっていましたから。

──だとしたら「花粉症で」と言えば済むのではないでしょうか。なにも「水が合わない」という含みを残した言い方をしなくても……。

中田:まあ……それは体調が最悪の時期だったぺ。あとたぶん、若い先生にしたら、この村での地域医療はやり甲斐がないと思う。診療所には入院施設もないし、薬を出す以外はたいした治療もできずに秋田市内の大病院に紹介状を書くことが多い。ただの紹介屋さんみたいになってしまうんだな。若い村民は自分で車運転して最初から他の病院に行ってしまうケースもある。そうするとほとんどお年寄りしか病院に来ない。そういう先生の「想い」と現実の差がストレスになっているんかなあ……。この先生は「自分はまだ若いから、医師としての腕を磨きたい」と帰られる前におっしゃっていました。

──そのあと直近で今年10月に来られた71歳の医師はひと月で辞職されました。

中田:ご本人が「80歳まで頑張る」というので来ていただいたんだが、残念ながら自己管理ができてなかったす。たちまち体調を崩されて心臓が弱り、もう故郷に帰られました。

──医師たちが次々と辞めていくのは、ちょうど激しい選挙戦で当選した前村長が就任した翌年の2008年から始まっています。選挙を巡って村内の対立がこの問題に影響を与えているのではないでしょうか。

中田:それは憶測です。選挙に絡めた方が(メディアは)話題性はあるわね。選挙のたびに医者が代わるとか、(話を)作ろうと思えばいくらでも作れる。なんでそんな勝手な憶測ばかりするのかなあ……よぐわがんねぇ。もしそうなら、村長選挙に「新しい医者を連れてくる」とか公約に掲げればいいけど、そんなことしていない。

 前村長の小林宏晨氏は、女性医師への「クレーム」については、「これは実際にこの女性の先生と話をして、彼女から聞いたことです。ただ5、6人の名前は教えてもらえませんでした」と語る。クレームを付けていた「不心得者」は小林氏への反対派ではないかという質問には「そういうことは私の口からは言えない」として、女性医師が辞職した理由についてこう述べた。

「彼女は医師として熱心で、土日でも深夜の1時2時でも求められると診察していました。私はそれは止めた方がいいと言ったんだが……そうやって熱心に診察してても(クレームが来て)無力感を覚えたのではないかな。また村民の中には『男尊女卑』というのか、女性の医師について無理解な人もいたと思う。都会と地方の文化的な落差があった」

 村の広報誌で書かれたように、女性医師への「過度のクレーマー」と呼ぶべき村民が一部いたことは事実のようだ。しかし一方で、この女性医師の辞職願に対して「辞めないで」と村民の5分の1を超える600人の嘆願書が集まったことも事実である。また彼女以外の医師について村民とのトラブルは、今回の取材では1件も出てこなかった。

 診療所で診察をまっていた80歳の男性は、ネットの「風評」について「聞いたことがある」と頷いて、うなだれた。

「上小阿仁の者が、先生をいづめるってことはねぇべや……」

関連記事

トピックス

CM露出ランキングで初の1位に輝いた今田美桜(時事通信フォト)
《企業の資料を読み込んで現場に…》今田美桜が綾瀬はるかを抑えて2025年「CM露出タレントランキング」1位に輝いた理由
NEWSポストセブン
亡くなったテスタドさん。現場には花が手向けられていた(本人SNSより)
《足立区11人死傷》「2~3年前にSUVでブロック塀に衝突」証言も…容疑者はなぜ免許を持っていた? 弁護士が解説する「『運転できる能力』と『刑事責任能力』は別物」
NEWSポストセブン
アスレジャー姿で飛行機に乗る際に咎められたそう(サラ・ブレイク・チークさんのXより)
《大きな胸でアスレジャーは禁止なの?》モデルも苦言…飛行機内での“不適切な服装”めぐり物議、米・運輸長官がドレスコードに注意喚起「パジャマの着用はやめないか」
NEWSポストセブン
(左から)小林夢果、川崎春花、阿部未悠(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫の余波》女子ゴルフ「シード権」の顔ぶれが激変も川崎春花がシード落ち…ベテランプロは「この1年は禊ということになるのでしょう」
NEWSポストセブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン