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村おこしブームに名俳優が苦言「村は起こしちゃいけません」

【著者に訊け スペシャル対談】福元満治×高山文彦

●たかやま・ふみひこ/1958年宮崎県高千穂町生まれ。法政大学文学部中退。1999年『火花 北条民雄の生涯』で第31回大宅壮一ノンフィクション賞と第22回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書多数。近著に『どん底』(小学館/1995円)。

●ふくもと・みつじ/1948年鹿児島県生まれ。現在、図書出版石風社代表、ペシャワール会事務局長。編集者歴40年、石風社創業30年の今年、これまで本について書いてきた文章を集めた『出版屋の考え休むににたり』(石風社/1890円)を上梓。

 福岡市・薬院駅近くの雑居ビル5階に、今年創業30年を迎えた出版社・石風社がある。高山は宮崎・高千穂出身。福元は鹿児島出身で、大学は熊本。石風社の会議室で2人の九州人が熱く語り合った。

 * * *
高山:中村さん(*注)を始め、出版目録には九州に関係の深い方の著作が並ぶ一方、小林澄夫著『左官礼讃』のように、全く違う本も多い。

【*注】中村哲・医師。ペシャワール会現地代表。1946年福岡市生まれ。1984年パキスタン・ペシャワールに赴任。以来貧困層の医療に従事。1986年アフガニスタンに活動を広げ、灌漑事業や農村復興にも奔走。マグサイサイ賞等受賞多数。『医者、用水路を拓く』(石風社)等。

福元:はい。最近のヒットはハーバードの医師、J・グループマン『医者は現場でどう考えるか』。今福岡に出版社は10社あるかないかですが、みんな地域密着型というわけでもないんです。

高山:よく中央の画一化や地方の疲弊云々と理屈をつけて街おこしを語る人がいますが、福元さんはその点懐疑的ですよね。もともと九州は口舌の徒を蔑む傾向があって、僕も子供の頃は「皆まで言うな」と爺様に叱られたもんです(笑い)。

福元:鹿児島では「議を言うな」、北九州では理屈屋を「アゴタン」と呼ぶ。久本さん【*注】だって、良心的な本を作るなど一言も言わなかった。それを「地域に根ざした善意の出版社」と。

【*注】福岡・葦書房の故・久本三多社長。

高山:それにしてもベロベロに酔っ払った俳優・常田富士男さんの口上は可笑しかったな。〈エー、日本国じゅう村おこし~村おこしといってはしゃいでおりますが~、村は~、起こしちゃいけません〉と言ったきり、本人が寝ちゃう(笑い)。

福元:あれは故・網野善彦先生を勉強会に招いた打ち上げの席のこと。常田さんが偶然現われて、『まんが日本昔ばなし』のあの口調で「村は~起こしちゃいけません」とやって寝てしまった(笑い)。日本国中同じようなアイデアで活性化をいえば、村も街ものっぺらと均質化するだけ。多様性や豊かさは、むしろ反時代的であることで培われる。

高山:それこそ苦海浄土もペシャワール会も誰が決めずともそこにある。大陸に近い地勢条件や歴史背景はあるとして、ヘンにいじらないでこその九州性です。

福元:うちは仕事以外に余計なことをするのが唯一の社風。市民が段ボール一箱ずつ本を持ち寄る古本市「ブックオカ」を編集長の藤村がやったり、私は毎週木曜にここで料理を作り、会費1000円で飲み食いできる「石風亭」をやっとります。すると福岡を元気にと言わんでもクモの巣が勝手に広がっていくんです。

高山:……僕もなんだか福元さんと話してて、焼酎ば飲みたくなってきたですばい。

福元:じゃ、そろそろ街に繰り出しますか!(笑い)

※週刊ポスト2012年12月14日号

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