ライフ

日本のメタボ検診 男より女の基準値大きく海外から笑われる

 10月中旬、健康診断好きの日本人にとっては衝撃的な内容のレポートが、デンマークで公表された。

〈一般健康診断は(病気の)罹患率と死亡率のいずれの低下にもつながっていない。それは心血管疾患やがんによるものをはじめすべての病気についても同様だった〉
〈一般健康診断が有益である可能性は低い〉

 こう結論付けたのは、医学研究の信頼性を検証する国際研究グループのノルディックコクランセンターだ。

 研究班はアメリカとヨーロッパで行なわれた14件の臨床実験のデータベースを用い、18万人以上の成人の情報を分析。健診を受けた成人群と、受けなかった成人群を平均9年間追跡してその違いを調べた。

 そのうち9件の臨床試験によると、両群において全体の死亡率及び、心臓病、脳卒中、がんによる死亡率に違いはなかったという。

 調査を行なったラッセ・クログスボール医師は、調査結果についてこう述べている。

「健診によって病気の罹患率や死亡率は減少しなかった。多くの人は自分の体を車と同じように考え、車検のように体も定期検査すべきだと考えているが、生物学はそれほど単純ではない」

 健診が抱える大きな問題のひとつが、各検査項目で設定されている「基準値」である。この値は非常にあいまいなものだと多くの医師が声を揃える。

 東海大学医学部名誉教授の大櫛陽一氏がいう。

「ほとんどの健診や人間ドックにおいて、日本の基準値は年齢はおろか性別でさえも分けていない項目が大半です。20歳の活力に満ちた男性と80歳のおばあさんが同じ基準で判断されるのはどうでしょうか。

 また、科学的な根拠のない基準値を設定している検査項目が多い。それは、各分野の臨床学会が患者数を水増しするために厳しい基準を作っているからです。そのため、健診受診者のほとんどが異常とされる項目もある。特に、メタボ関連の基準値であるウエストや血圧、脂質などは欧米に比べて極端に狭い基準値を使っているので問題です」

 こんなデータがある。日本人間ドック学会が今年8月、昨年に人間ドックを受診した全国の約313万人について、「異常なし」とされた人の割合が過去最低の7.8%だったと発表した。メタボ関連の項目一つで「正常者が50%」になり、複数の項目を調べることで、健康な人の9割以上が何らかの異常と指摘される状況になっている。これには同学会さえも「生活習慣病に関する項目の判定基準が厳しくなっている」と頭を抱えたほどだ。

 では、具体的にどの基準値がどうおかしいのか。

【ウエスト】
 男性は85センチ未満、女性は90センチ未満が厚労省の定める基準値で、男性が女性よりも厳しい数値になっている。アメリカでは男性が102センチ未満、女性は89センチ未満と男性の基準値のほうが大きい。なぜ、日本はアベコベな値になっているのか。

 医学博士で新渡戸文化短期大学学長の中原英臣氏が指摘する。

「ウエストの測定法に問題があるんです。日本ではへその位置でウエストを測るが、国際的には肋骨の下と骨盤の上の間の骨のないところで測定するのが普通。男性はこの位置でもへそでも変わりありませんが、女性はへその位置で測ると骨盤が含まれてしまうため、男性よりも大きな基準値となっているのです。骨盤を入れたら内臓脂肪なんて測れるわけがなく、海外の研究者から笑われています。早く変えるべきです」

【血圧】
 上(収縮期)は130未満、下(拡張期)は85未満というのが厚労省がメタボ検診で示す基準値だ。大櫛氏がいう。

「今から20年ほど前まで、40歳以上を対象とした住民健診では収縮期180未満、拡張期100未満が治療の対象外でした。それが年々厳しくなり、メタボ健診では130/85以上が異常とされたのです。

 そもそも加齢に伴い血圧が徐々に上がっていくことは自然なこと。ですが、こんな基準があるから医師が降圧剤を乱用する。高血圧は脳卒中のリスクを増やすといわれていますが、そのリスクは高血圧自体ではなく、降圧剤の副作用という研究もあるのです」

※週刊ポスト2012年11月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト