芸能

キムタクの月9ドラマ 忠臣蔵や水戸黄門、寅さんとも共通点

 捲土重来を期すフジテレビにとって、この「月9」は“絶対に負けられない戦い”だったはずだ。制作側の意図と狙いについて、作家で五感生活研究所の山下柚実氏が分析する。

 * * *
 木村拓哉主演・月9のドラマ「PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!~」(フジテレビ系)の視聴率が20%を突破しました。これまでの回は15~18%あたりを上下していたのが、12月10日に放映された第8話で、とうとう20%の大台に。

 今クールのドラマで20%超えは、「PRICELESS」の他に、「ドクターX ~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)のみ。トップの座を争う展開になりました。

 さて、話題の「PRICELESS」というドラマ。一言でいえば現代版わらしべ長者です。会社を解雇されて無一文になったキムタク演じる金田一。ホットドッグの屋台を始めると、大評判となり、今度はその権利を売って魔法瓶作りに着手。6万円の究極の魔法瓶が大ヒットして社長になり……、次から次へと幸運の連鎖が。

 とにかく、「幸福荘」という舞台がクサイ。「ハピネス魔法瓶」は、よくぞつけたと思うベタなネーミング。エピソードもベタベタ。「貧しかった時に魔法瓶の温かい飲み物をもらった。その温かさが忘れられなくて魔法瓶作りを始めた」とか、「中小企業のオヤジたちが手と手を携えて助け合い」「金儲けよりも人の思いを大切にしよう」。

「ありえないー!」と、つっこみたくなる部分が随所に。そう叫んでふと、ドラマのサブタイトルが耳に響くのです。「あるわけねぇだろ、んなもん!」

 そうか。

 ドラマを制作している人たちは、すべて意図しているわけね。ねらってやっているのですね、ベタな作りを。わかりきったクサさを。敢えて、単純化を。

 たしかにこのドラマの主題は一行で言い尽くせます。「逆境に置かれても、前向きに攻める男のサクセスストーリー」。この複雑奇怪な時代の中で、明るい希望を表現するためにわざわざ夢やロマンの行方をシンプルにしたのかも。

 だから、テレビからちょっと目を離しても、筋立てが混乱してわからなくなることはありません。安心して見ていられます。この素朴なわかりやすさこそ、視聴率が高い理由の一つでは。

 でも、最初からわかっている単純な筋だてを、なぜ人は喜んで見るのだろうか? それで娯楽になりえるのだろうか? はい、人は喜んで見るのです。「先がわかっている」からこそ、見るのです。

 歌舞伎の忠臣蔵だって、水戸黄門だって、寅さんだってみんなそう。展開も結論も、もうわかっている。わかりきっている筋を敢えてトレースして楽しむ。そういう楽しみ方がある。昔から大衆はそのようにして、多くのドラマを楽しんできたのです。

 もちろん、このドラマはただの「単純」が狙いではない。それは、サブタイトル「あるわけねぇだろ、んなもん!」を見れば一目瞭然。 

 視聴者も、時に素直に涙を流したり感情移入して感動しつつ、ふと冷静になって「あるわけねぇだろ、んなもん!」と自分につっこみを入れながら、その振幅を楽しんでいるのです。そのあたりが、現代的で斬新です。

 単純と複雑を行き来する、ポリフォニックな構成。感情を二転三転させてくれる作りこそ、このドラマの人気の理由ではないでしょうか。

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト