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勝谷誠彦 失われた20年の後にやってきた「デフレ民主主義」

 先の総選挙の投票率は1996年の小選挙区比例代表並立制の導入後、これまで最低だった59.65%(1996年)を下回った。「誰に入れても一緒」という国民の政治への不満の表われか、あるいは政治への無関心の極みなのか──。小選挙区制度が始まったと同時に奇しくも日本は「失われた20年」という時代に突入している。勝谷誠彦氏は、この20年という歳月が人々に与えた影響を分析。『メルマガNEWSポストセブンVol.46』に掲載された同氏のコラムを3回に分けて全文掲載する。今回はその2回目。

 * * *

(※12月29日配信分からの続き)

 人々が怠惰だったとは思わない。きっと多くの人々は誰に入れようかと自問自答したはずだ。今回、白票が多かったと聞く。投票所までは足を運んでくれた人々がいたのだ。しかし、そこで迷ったあげくに誰の名前も書かなかった有権者のことを思うと私は胸が痛む。なぜこんな国にしてしまったかとすら思う。私は、そこで敢えて名前を書いて欲しかったのだ。

「自ら知らざるを知る」から白票しか入れられないのだ、投票もやめたのだ、あんたが言ったんじゃないか、と叱られそうだ。しかし「知らざるを知った」あとに、なぜ「決断」ができないのだろう。確かに自分は不勉強だ、無知だ。だからどうなのだ。そこからの一歩こそが大切なのである。知らざるを知ったからこそ、震える思いで次の判断をしなくてはいけない。

 おそらく、投票前にはさまざまなメディアから膨大な情報が入っていただろう。マジメな人ほど参考にしていたに違いない。その前で、むしろすくんでしまわなかったか。整理し、判断することが難しくはなかったか。私は、このあたりが今の日本人の最大の問題ではないかと感じるのだ。

「失われた20年」と言われる。それは奇しくも小選挙区制を導入してからの歳月であり、デフレの時代だった。なのに、私たちをとりまく情報量はどれほど増えたことだろう。昔は電車の中でサラリーマンがマンガを読んでいるだけでひどい時代になったと嘆かれたものだ。しかし今では、誰もが車内でスマホをいじっている。いったい何を見ているの? 誰とつながっているの? それは本当にあなたに必要なことなの?

 総選挙のあと、「デフレ民主主義」という言葉を私は使い始めている。政治家と、有権者と、政策がいずれもどんどん劣化していく「デフレスパイラル」が起きている、ということだ。その一方で世の中に情報はあふれかえっている。つまりはそれらが生かされていない。これはバッタものの居酒屋があふれ返って「どこでもいいや」と、本来の味というものが忘れられている巷の飲食店業界状況に似てやしないか。こちらも「デフレスパイラル」なのは私も経営者だから痛感している。

 なぜこんなことになったか。それは私たちが情報の海に溺れて麻痺し、死にかけているからだ。情報というものがカネになると知った現代の死の商人たちが、あなたを食い物にしているからだ。電車の中でスマホをいじっている皆さん、あなたがたはハラワタまで食われているのである。それらの情報ははたして役に立っていますか? 立たないとわかると不安なので、誰かと「そうだよね」とつながりたがる。時にそれの集積はブームという名の、それこそザバンザバンと動くバケツの中の水となるのだ。

 人類はそれぞれの脳の中の情報の処理能力を次第に高めてきた。しかしここ20年ほどの外部からの入力は異常と言っていい。はたしてそれに私たちはついていけているか。私は否だと思う。ついていけないと「人が知っているかどうか」が気になる。誰かとつながっていないと不安になる。私は孤独でいることを選んで、それを知った。多すぎる情報は、安息よりもはるかに不安を生むのだということを。

(※この続きは12月31日7時に配信予定)

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