かつて、フィルムのカメラで撮影しプリントしていた時代には、赤ん坊の頃からの成長が丁寧に貼られたアルバムは家族の「財産」だった。しかし、近年家族でアルバムを広げて楽しむ光景は少なくなり、代わって売り上げを伸ばしているのは、簡易なフォトブックやデジタルフォトフレーム。
それでもアルバム全盛期の売れ行きにはほど遠い──。
「デジタルカメラの高性能化で撮る方は進歩した。ところが逆に見る機会は減っているんじゃないか?」
ハードディスクや無線LANなどのパソコン周辺機器のトップメーカー・バッファローの上層部から社内への問いかけがあったのは2009年12月のことだ。すぐさま「バッファローとして、撮影した映像の楽しみ方を提案する」というプロジェクトが立ちあがった。
後に「おもいでばこ PD-100S」となり大反響を呼ぶ商品の開発メンバーとして白羽の矢が立った一人が、加藤勇人。入社以来長く営業畑を歩んできたが、もともと「開発担当希望」だった。
加藤は、カメラを新調して街に飛び出した。山手線を一周しながら、毎日風景写真を撮影した。撮りながら思考を巡らし思い付く。
「今は、GPS機能のついたカメラも増えている。データを探す際に、撮影した場所からでも探し出せれば楽しいはずだ、と」
アイデアは次から次へと浮かんできたが、
「独りよがりになるな。スペックじゃない。体験で選べ――。自分にそう言い聞かせてきました」
ここで加藤はハタと気付く。
「かんたん、シンプルが一番難しい」と。
気が付いたらあの機能もこの機能も入れたいという自分がいた。だが、それでは、「かんたん、シンプル」ではなくなってしまう。
「機能をそぎ落とす作業は、“開発の断捨離”作業でした」
それだけに、搭載された機能は、パソコンが苦手、面倒という人も気軽に楽しめ、その一方で、パソコンを駆使する人をも唸らせる。
何よりうれしいのが、SDカードを挿し込んでボタンをひとつ押すだけでしっかり写真データを整理してくれるところ。日付順に並べてくれるし、同じデータは二度取り込まない。
「どのような場面でもユーザーの負担を軽減したい」
と、撮影した日時、画像ファイルの容量の大きさなど、多角的にチェックできるようにした。
従来、同社の製品名は無機質なものが多かったが、親しみやすい商品にするため商品名も初めて社内公募で決めることになった。多数の応募があったが、最終的に開発コードネームだった「おもいでばこ」がそのまま採用された。2011年11月に初期モデルが、2012年11月には無線機能を搭載しSNSへの投稿もできる「おもいでばこ PD-100S」へとモデルチェンジした。
「写真を見れば思い出が蘇る。まさにこの商品にぴったりの名前でした」
■取材・構成/中沢雄二
※週刊ポスト2013年1月25日号