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消息不明の父が生活保護申請 子は役所の支援要請断われるか

 竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「消息不明だった父親の面倒を見ないと罪になるのでしょうか」と以下のような質問が寄せられた

【質問】
 家を出て行った父親がいます。音信不通だったのですが先日、役所から連絡があり、その父親から生活支援の申請が出されたというのです。しかも成人となって働いているあなたが援助すれば生活保護を受けなくてもよくなるといわれました。ただ私の生活も苦しいので断わった場合、罪になりますか。

【回答】
 あることをした人を罪に問うためには、その行為をしたことを処罰する法律が必要です。親子の間には、民法上、扶養義務がありますが、役所に生活支援を断わったというだけで刑罰を科するという法律はありません。

 しかし刑法第218条は「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三か月以上五年以下の懲役に処する」と、老人など弱者に対する保護責任について定め、これに該当する場合は刑事罰の対象になります。老親と同居している子どもには保護責任があるでしょうが、保護責任者とは、必ずしも扶養義務者と同一ではありません。

 また、遺棄か生存に必要な保護の放棄がないと、この罪は成立しません。遺棄とは、場所的な移動や置き去りといった行為です。生存に必要な保護とは、食事を与えないとか、病気になっても医者にかからせないなどの行為です。

 あなたの場合、父親に対して刑法上の保護責任があるかが、まず問題です。親子間でも幼児に対する親の扶養義務は、生活保持義務といって、身を削っても扶養する義務があり、子の親に対する扶養は生活扶助義務で、生活に余力がある範囲で行なえば足りると考えられています。

 生活が苦しいあなたが支援する義務はないと思います。まして子どもの面倒をみないまま音信不通になって、別所帯で暮らしている父親に対し、刑法上の保護責任が認められることはないはず。もちろん生活支援を断わっても、遺棄や保護の放棄とはいえず、罪になるとは思えません。

 憲法上、すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が認められています。子どもの生活が苦しく、親の支援ができない場合、老人の生存権を守るのは国の責任です。

※週刊ポスト2013年2月1日号

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