どちらも日本初出店から40年以上。日本のファストフード業界を引っ張ってきた勝ち組2社が不振に陥っている。
「昨年のマーケットの落ち込みは予想外に著しいものだった。いまは戦略の転換をはかるため、厳しい過渡期を経験しているところ」
と語ったのは、日本マクドナルドホールディングスの原田泳幸社長。同社は2012年12月期で純利益が前期比3%減となる128億円しか上がらず、じつに9年ぶりとなる減収減益の決算に終わってしまった。
100円の低価格ハンバーガーやコーヒーで客数を増やす一方、高価格で粗利の取れるバーガー類、サイドメニューを充実させる戦略を続けてきたマクドナルド。次々と新商品を投入するその手法は、“原田マジック”とも称賛されたが、いよいよマジックのタネも尽きたのか。
経済誌『月刊BOSS』編集長の河野圭祐氏が、マクドナルドの不敗神話が崩れた理由をこう分析する。
「どんなに高価格帯の季節限定バーガーやご当地バーガーを出しても、消費者の興味は安い商品にしか向かわず、しまいにはコーヒー1杯で何時間も居座る『マック難民』の存在が話題になる始末。今年に入ってバーガー無料券をバラ撒くキャンペーンで客数を上げようとしましたが、あまり効果はなかったようです」
マクドナルドと並ぶファストフード業界の雄、ケンタッキーも消費者の節約・低価格志向で大きな痛手を負った。2012年4~12月期の連結営業利益は、前期比6.5%減の17億円。主力であるフライドチキンの売り上げが落ちた要因は、ファミリーマートはじめ、コンビニが安価なチキンを発売したことが少なからず影響している。
ファストフード店の勢いは、コンビニ業界に呑み込まれてしまったというわけだ。
「セブンイレブンは100円のセルフ式コーヒーを全店で導入しますし、デリバリービジネスにも力を入れています。全国1万5000店も網の目を張りめぐらすセブンでさえ、客を待っていてはダメだと宅配で売り上げを奪いに行く時代。その5分の1の店舗数しかないマックが何もしなければ勝ち目がないのは明らかでしょう」(前出・河野氏)
マクドナルドやケンタッキーが急ピッチでテイクアウトやデリバリー事業など、イートイン以外の収益拡大を探っているのは、対コンビニの抵抗策ともいえる。
だが、コンビニの強さはそれだけではないと指摘するのは、日本フードアナリスト協会公認のフードアナリスト、重盛高雄氏である。
「例えば、ファミリーマートのフライドチキンはレギュラーチキンを先に出してから、値段が高めのプレミアムチキンを発売しました。消費者が納得できる付加価値をつければ、金額が高くても買ってもらえることを証明したのです。『安かろう悪かろう』ではなく、味の伴ったおトク感を消費者に植え付けた点で、マックの低価格戦略とは大きく違います」
実はファストフード業界の生き残りを占う意味で、コンビニの価格戦略は参考になる。
「マクドナルドもケンタッキーも世界カンパニーであるがゆえに、原材料や容器、包装材にいたるまで輸入に頼っている面は大きい。だから、いまの円安が懸念材料になって商品の値上げを考えざるを得なくなる時期が来るでしょう。そのとき、味はそのままで値段を上げれば、客足は遠のくばかりです」(重盛氏)
原田社長も低価格商品の値上げを否定しない。「どのタイミングで値上げをしていくか検討している」(原田氏)という。だが、1月には九州の一部店舗で100円メニューを120円にして批判を浴びたばかり。
「もう地域価格などと称した値上げは通用しない時代です。新商品で勝負できなければ、レギュラーメニューのクオリティーを上げてコストパフォ-マンスを持たせないと値上げは難しいでしょう。ケンタッキーについては、例えば、脚や手羽など部位別に値段を変えるなどして付加価値をつけるのも値上げの材料になるかもしれません」(重盛氏)
円安株高によるデフレ脱却機運が盛り上がる中、ファストフード業界は定番メニューのプレミアム化で、再び消費者の財布の紐を緩ませることができるか。