超高齢化社会を迎え、医療の重要性は増すばかりだが、日本には我々国民の将来を支え、活気をもたらす「国民医」とも呼ぶべき名医たちが存在する。2月8日に発売となる 『国民医のアドバイス』(小学館刊)に登場する医師による提言をお届けする短期シリーズ。白内障の革新的手術方法を編み出し、世界からも注目を浴びる三井記念病院眼科部長の赤星隆幸氏に話を聞いた。
「白内障は50歳前後から増え始め、60歳以上では8割の人に認められます。しかし、最適な時期に手術をすれば必ず治るものです」(赤星氏)
白内障とは、眼球をカメラに例えると、レンズの役割をしている「水晶体」と呼ばれる部分が濁ってくる病気である。光が散乱するため、まぶしくなったり、物がダブって二重に見えたり、進行すれば視力低下といった症状が出る。原因の大半は加齢である。
水晶体は一度濁ってしまうと元には戻らないため、手術で濁った水晶体を取り出し、代わりに人工の水晶体(眼内レンズ)を挿入するしか方法はない。
現在、一般的に行なわれているのは、眼球を3ミリほど切開し、そこから超音波チップという小さな筒状の器具を入れて水晶体の核に十文字の溝を掘り4つに分割、1つずつ順番に吸引してから眼内レンズを挿入する術式である。
「しかし、超音波で核の溝を掘る技術は熟練を要します。手術にかかる時間が長くなると、角膜を傷めてしまったり、超音波チップの熱で傷口が焼けてしまう可能性もあります。そこで私は、もっと確実で安全な方法はないかと考えました」
それが1992年に赤星氏が考案した「フェイコ・プレチョップ法」。フェイコ=水晶体、プレ=あらかじめ、チョップ=砕く。つまり、濁って硬くなった水晶体の核を、超音波で吸引する前に砕いておくという手術法である。
この手術は、眼球に点眼麻酔を施し、厚さ100ミクロンのダイヤモンドメスで角膜を1.8ミリ切開することから始まる。
「昔の手術では傷口を縫う必要があったため、眼球に歪みが生じ乱視が残ってしまいました。現在主流の手術法では傷口は3ミリまで小さくなりましたが、それでも乱視は残ります。プレチョップ法は、角膜の切開が僅か1.8ミリで済むため、乱視になりません。また、ダイヤモンドメスで切開した傷口はきれいで、縫わなくても自然に塞がります」
次にプレチョッパーという刃のついたピンセットのような器具で水晶体を小さく砕き、それを1つずつ超音波チップで吸引する。
「プレチョップ法では核を分割するのに超音波を一切使いません。そのため、目の組織に与える侵襲も少なくなりました。また、従来は20分以上かかっていた手術時間も、3~4分に短縮され、患者さんの負担も大幅に軽減されました」
最後にインジェクターという器具を使い、直径6ミリある眼内レンズを細く丸め、1.8ミリの傷口から挿入して手術は終わる。
※週刊ポスト2013年2月15・22日号