ライフ

「弱くても勝てます」 超進学校・開成高校野球部を描いた書

【書評】『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』高橋秀実/新潮社/1365円
【評者】福田ますみ(フリーライター)

 いきなりくすくす笑いが出た。冒頭部分、著者の高橋秀実氏が、開成高校野球部の練習を見学するくだりである。

 毎年200人近くが東大に合格する超進学校の開成高校。その開成高校野球部が、実は、平成17年の高校野球選手権大会の東東京大会でベスト16に勝ち進んだことを聞き、驚いた高橋氏が取材を申し込んだのである。

 ところが、練習を見学するうちに高橋氏は気がつく。野球が危険なスポーツであることを。なにしろ彼らは守備が異常に下手なのである。平凡なゴロを見事にトンネルし、フライが上がるとおっかなびっくりジャンプするが、これも見事に後逸。キャッチボールでさえエラーするので、危なくておちおち眺めていられない。いきなり「上です!」と言われて身をすくめる。

 一体彼らは、こんな体たらくで、どうして勝ち上がって来たのか? 練習はほとんどバッティング中心。守備の方は、“試合が壊れない程度の守備力”でいいらしい。なにしろ同校野球部監督の青木秀憲氏(東京大学野球部出身)は「10点取られる前提で守備にあたる」というのだから。まともにやっていたら絶対勝てないチームが編み出した弱者の兵法とは次のごとく。

 バッティングはそこそこいいのでまず一発ドーンと打つ。すると、相手チームは強豪校といえども高校生。弱小チームに打たれて浮足立ったところを、ドサクサに紛れて大量点を取り逃げ切る。エラーしまくるのも、相手チームの油断を誘う作戦とか?

 なるほど、超進学校ならではの見事な(?)“頭脳プレー”だが、怒鳴りまくる青木監督の指導を文言通りに受け取ってしまったり、試合中、ベースを踏み忘れた選手を叱るために監督が集合をかけたのに、次のバッターまで集合してしまい試合の進行を止めてしまうなど、ちょっと抜けているところもある。

 青木監督は全編怒鳴りまくるが、その言葉がなんともユニーク。ピッチャーに向かって「ピッチャーをやるな!」「野球をしようとするな!」「甘い球を投げろ!」。

 ヒットが続き、開成に有利な試合展開になると、「ドサクサ、ドサクサ!」と絶叫。勝ったのに、お家芸の大量得点ができなかったことに激怒し、「これじゃまるで強いチームじゃないか!」。

 野球という、彼らにとっては勉強より制御不能な難物に取り組む開成高生と高橋氏の、禅問答のような会話も面白い。

※女性セブン2013年2月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

「夢みる光源氏」展を鑑賞される愛子さま
【9割賛成の調査結果も】女性天皇についての議論は膠着状態 結婚に関して身動きが取れない愛子さまが卒論に選んだ「生涯未婚の内親王」
女性セブン
勝負強さは健在のDeNA筒香嘉智(時事通信フォト)
DeNA筒香嘉智、日本復帰で即大活躍のウラにチームメイトの“粋な計らい” 主砲・牧秀悟が音頭を取った「チャラい歓迎」
週刊ポスト
『虎に翼』の公式Xより
ドラマ通が選ぶ「最高の弁護士ドラマ」ランキング 圧倒的1位は『リーガル・ハイ』、キャラクターの濃さも話の密度も圧倒的
女性セブン
羽生結弦のライバルであるチェンが衝撃論文
《羽生結弦の永遠のライバル》ネイサン・チェンが衝撃の卒業論文 題材は羽生と同じくフィギュアスケートでも視点は正反対
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
撮影前には清掃員に“弟子入り”。終了後には太鼓判を押されたという(時事通信フォト)
《役所広司主演『PERFECT DAYS』でも注目》渋谷区が開催する「公衆トイレツアー」が人気、“おもてなし文化の象徴”と見立て企画が始まる
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン