白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として新刊『ボケない道』(小学館101新書)を上梓し、テレビ出演も多い白澤氏が、糖尿病と間食の関係についての新しい知見を紹介する。
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平成19年の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる890万人と糖尿病の可能性を否定できない1320万人を合わせて糖尿病の可能性のある人は、全国で実に2210万人以上と推定されている。
糖尿病は食べ過ぎや運動不足などの生活習慣を基盤に発症することが知られているが、悪い生活習慣はなかなか改善できないのか、日本での患者数は増加の一途をたどっている。糖尿病の引き金は、欧米型の食事によるカロリーや糖質の摂り過ぎが発症要因と指摘されている。しかし、食事のみならず、間食が糖尿病の発症に重要な引き金になることはあまり知られていない。
米国ソーク生物学研究所のイグオ・ワン博士は、糖尿病を発症する時には肝臓で「イノシトール3リン酸」受容体という細胞内のカルシウムの濃度を調節している分子が重要な役割を果たすことをネズミの実験で明らかにした。通常、摂取された栄養は、腸管で吸収された後、門脈という血管を通って肝臓に運ばれる。
一方、膵臓で分泌されたインスリンは、門脈を通って一緒に肝臓に運ばれることになる。肝臓に到達したインスリンは受容体に作用し、細胞内カルシウム濃度を上昇させ、肝臓で糖を作る回路を抑制すると同時に肝臓に糖を取り込む回路を活性化させている。
しかし、糖尿病を発症したネズミを調べると、門脈に高濃度のインスリンがあるにもかかわらず、肝臓の細胞ではイノシトール3リン酸受容体が機能せず、さらに糖を作り続けて高血糖になっていた。
糖尿病の発症初期で血糖が上昇するのは、吸収した血糖を下げられないのではなく、肝細胞がインスリンのシグナルを誤認知して血糖を新たに合成してしまい、高血糖を維持している病態が明らかとなった。
広島市で内科を開業する唐川卓治医師は、間食が糖尿病発症に重要な役割を果たしていると警鐘を鳴らす一人だ。唐川医師は、「間食により波状的に門脈内に分泌されるインスリンが、肝臓のインスリン感受性を狂わせて誤作動させているのではないか」と分析。
糖尿病の初期治療で、間食をやめることを患者への食事指導の大きな柱にしたところ、多くの患者で薬を使わずに糖尿病が改善、完全に治ってしまった症例も経験したという。 これまではあまり注目されてこなかった間食の問題だが、糖尿病の初期治療では重要な治療指針になりそうだ。
※週刊ポスト2013年3月8日号