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生活保護「申請に来た」と断言しないと追い返されると事情通

 なにかと話題になる生活保護制度。不正受給の問題もあれば、制度見直しは弱者の切り捨てにつながると指摘する人もいる。保護費の受給は困難と言われるが、「生活保護申請のサポート」をしている人物が現れた。どういうことなのか、話を聞いた。(取材・文=フリーライター・神田憲行)

 * * *
 この男性は都内で不動産業を営むAさん。50代前半でごま塩頭のひょうひょうとした雰囲気だ。Aさんは今まで生活保護を申請者にアドバイスすることおよそ100人、打率10割近くの成績で受給に成功しているという。そもそもなぜそんなことをしているのか、Aさんが手がける不動産物件と関係がある。

 Aさんが手がけているのは「競売物件」だ。たとえばローンが支払えず銀行から差し押さえを食らって競売に出された一軒家やマンションを安く落札し、リフォームして高く転売する。しかし、なかには元の所有者が「占有者」として、自宅にそのまま住んでいるときがある。出て行ってもらおうにも、自宅が差し押さえられるまで困窮していた元の所有者に、転居できるカネもない。そこでAさんは退出させる手段として、生活保護を利用することを思いついた。

「昔は占有者の方に立ち退き料をお支払いしていたんですが、物件の落札価格が上昇してきて、立ち退き料を払っては元がとれなくなってきました。そんなときに生活保護を受給すれば『引っ越し代』も出ると知り、15年くらい前からサポートするようになりました。困ってる人を福祉に押しつけちゃってる気もしますし、褒められる行為ではないとはわかっています。でも、『使い方を知っている人間だけが得をする制度』って、やっぱり不平等な気がするんですよ。私がサポートしているのは本当に困窮していて、強制執行に来た執行官から『福祉の世話になりなさい』って諭されるような人たちなんです。私自身はサポートすることでコミッションなど一切取っていないので、そこはお許しいただけたい」

 そういってちょっと拝むような仕草をして、Aさんはこれまで見てきた生活保護申請の現場について語り出した。

「生活保護というのは受給することが難しいというイメージがあるかもしれません。たしかに数年前まではそうでしたが、最近は甘くなっていたんですよ。これからまた厳しくなるかもしれませんが。自治体や担当者によって使い勝手がずいぶん違う制度なんです。自治体でいえば、財政的に余裕があるからでしようか、東京23区は比較的申請が通りやすい。逆に経験的に埼玉県の越谷市は、なかなか通りにくいと思います。直接拒否するわけではないんですが、動きが遅い。執行官の方も『あそこはシブイ』と言っていました」

 国立社会保障・人口問題研究所の統計によると、生活保護総額は昭和から平成に掛けていったん減少していくが、平成6年から急増していき、平成13年に2兆円台を突破し、さらに平成21年には3兆円台を突破した。

「私も最初のころは生活保護申請について四苦八苦していました。しかし繰り返すうちに、だんだん生活保護申請のコツみたいなのがわかってきたんです。それは窓口に行って、『生活保護を申請しに来ました』と断言することなんです。役所の面談カードには生活保護の申請というチェック欄はなくほとんど『生活の相談』になっています。そこで『生活が苦しくて相談にきた』『生活保護はお願いできないか?』と曖昧な言い方をすると、担当者さんに言いくるめられて返されてしまう。

 そのためには書類もあらかじめ完璧に揃えておきます。私は書類のチェックシートを作っていまして(と、鞄から文章を箇条書きにした紙を取り出して)印鑑、通帳、入金関係の証明書、公共料金の引き落とし関係、などなど、必要なものがすぐわかるようにしてあります。書類が完璧に揃っていて、だいたい直近3か月の収入が額面で平均月13万円以下なら、2週間以内に受給が決定されると思います。申請が通ると、人によって細かく違いますが、単身者なら引っ越し費用に25万~29万円くらい出て、生活費用が8万円前後、家賃が東京都なら5万3700円、埼玉・神奈川なら4万7700円が支給されます」

 一方で問題となるのが不正受給だ。厚生労働省のまとめによると、2011年度の不正受給総額は約173億円(約3万5000件)という。11年度の生活保護費は総額で3兆5000億円だから0.4%に過ぎないともいえるが、金額・件数とも過去最多を記録した。Aさんも不正受給している人物を見てきたという。

「不正受給の問題に関して言えば、申告者の収入調査が甘いと感じるときもあります。これは私がサポートした人ではありませんが、アルバイトを2つしてても片方を隠して、報告するのを1つだけにしてもばれなかった人や、生活保護と失業保険を同時に貰っている人もいました。30万円ほどの貯金を隠したまま受給した人もいいました。私がサポートする人は50代くらいの人が多いんですが、区によって窓口に20代の男性やシングルマザーの若い女性がたむろしているところもある。そういうのを見ると、正直、『働けよ』と思いますよ」

 そしてこう続ける。

「ただ収入調査が行き届かない面は、しょうがない部分もあります。私が申請のサポートを始めた15年くらい前はケースワーカーひとりに70~80人の担当で、それでもヒーヒー言ってたのに、今は多いところでケースワーカーひとりで200人も担当しているといわれます。ひとりひとりの収入調査に完璧に手が回るわけがない。それだけ生活保護を申請する人が増えているんですね。

 あと貧困ビジネスをやってるNPO団体もあります。二畳一間の部屋を生活保護の上限家賃で貸して、粗末なメシで食費月4万円徴収とかもあります。これでは手元に1万円ぐらいしか残らないから、いつまでたっても独立できません。私かがやっていることもあんまり褒められたことではありませんが、ああいう連中にもっと注目してほしいと思います」

 生活保護問題は「受給者バッシング」だけしていればいいわけではない。多角的な議論が必要だ。

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