ビジネス

65歳定年制で若手社員「あの人たちのせいで給料上がらない」

「65歳定年」と聞いて、「働き慣れた職場で5年長く働けて、安心した老後を送れる」と安穏と考えるのは大きな間違いだ。実態はかつてない様々な落とし穴が存在する。経営コンサルタントの岩崎日出俊氏が解説する。

 * * *
 4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行された。企業は希望した社員全員を65歳まで雇用することが義務付けられた。

 雇用主は、(1)定年延長、(2)継続雇用制度の導入、(3)定年廃止、のいずれかを実施しなければならない。(1)や(3)を採用する企業は極めて少なく、厚生労働省が約14万社を対象に調査した結果では、8割以上の企業が(2)の継続雇用制度を導入している。

 継続雇用制度は、さらに「勤務延長制度」と「再雇用制度」に分類される。勤務延長制度とは、定年後も従業員を退職させることなく雇い続けること。一方の再雇用制度は60歳になった時点で従業員を一度退職させ、再雇用する。大半の企業は後者の「再雇用制度」を導入している。

「再雇用制度」にはいくつかの落とし穴がある。まず、再雇用後に非正規社員になるケースがある。

 改正法では各企業がグループ内に人材派遣会社を作り、定年後の社員を派遣会社で再雇用して元の会社や職場に派遣することが認められた。非正規社員として再雇用されると、給料は激減する。厚労省や連合の調査では、60歳以前と比較して再雇用後は多くが3~4割減、半減する人も珍しくない。

 正社員のまま給与を半分にしたら組合が黙っていないだろうが、非正規ならば黙認されるケースが少なくない。賃金構造基本統計調査によれば、50代後半正社員の平均月収は約38万円。半減ならそれが約19万円となる。

 これまでは老齢厚生年金の報酬比例部分(平均で月額約10万円)を受給できたのでなんとか減額分も補えていたが、今年4月以降に還暦を迎える世代からは60歳で年金受給できなくなった。受給開始年齢は今後も段階的に引き上げられて、最終的に65歳からとなる。

 また、再雇用制度では働きづらい職場環境が生まれやすい。かつての部下が上司になり、年下の若い社員にお茶汲みを頼まれるといったケースも当たり前になる。

「これまでの信頼関係があるから大丈夫」と思ったら大間違いだ。若手社員は再雇用された60歳以上を歓迎しないだろう。なぜなら、60~65歳を雇うことで若手の給料が減るからだ。

 雇用主としては総人件費を簡単には増やせない。そこで60歳未満の社員の給与を削減するなどして60~65歳の人件費を捻出する。現実に、NTTグループは65歳までの希望者全員を継続雇用するため、新しい賃金制度を導入する方針を示した。

 40~50代を中心に賃金カーブの上昇を抑え、60歳以上の賃金の原資とする。40代以下の社員にしてみれば、「あの人たちが残っているせいで自分たちの給料が上がらない」と感じる。特に定年まで順調に昇給して再雇用された世代に対する感情は厳しいものになるに違いない。

 ただでさえ、再雇用者はこれまでの仕事とは違ったスキルを求められる。外回り営業畑一筋のサラリーマンが、パワーポイントを使った資料作りやエクセルでの表計算などをやらされるケースは多い。手間取れば不満を募らせる若い管理職から「こんな簡単なこともできない?」と冷たい視線を向けられることになる。

 給料は激減し、周囲からは疎んじられる65歳定年制とは、そういう仕組みなのだ。

 電機メーカーを中心に存在が明らかになった「追い出し部屋」は、今のところ定年前の社員を対象としたものだが、近いうちに「60歳以上専用追い出し部屋」が生まれることになるかもしれない。

※SAPIO2013年6月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
高校時代には映画誌のを毎月愛読していたという菊川怜
【15年ぶりに映画主演の菊川怜】三児の子育てと芸能活動の両立に「大人になると弱音を吐く場所がないですよね」と心境吐露 菊川流「自分を励ます方法」明かす
週刊ポスト
ツキノワグマは「人間を恐がる」と言われてきたが……(写真提供/イメージマート)
《全国で被害多発》”臆病だった”ツキノワグマが変わった 出没する地域の住民「こっちを食いたそうにみてたな、獲物って目で見んだ」
NEWSポストセブン
2020年に引退した元プロレスラーの中西学さん
《病気とかじゃないですよ》現役当時から体重45キロ減、中西学さんが明かした激ヤセの理由「今も痺れるときはあります」頚椎損傷の大ケガから14年の後悔
NEWSポストセブン
政界の”オシャレ番長”・麻生太郎氏(時事通信フォト)
「曲がった口角に合わせてネクタイもずらす」政界のおしゃれ番長・麻生太郎のファッションに隠された“知られざる工夫” 《米紙では“ギャングスタイル”とも》
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
将棋界で「中年の星」と呼ばれた棋士・青野照市九段
「その日一日負けが込んでも、最後の一局は必ず勝て」将棋の世界で50年生きた“中年の星”青野照市九段が語る「負け続けない人の思考法」
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン