国際情報

国連機関「昆虫食は栄養あって美味、理想的な食料」に物申す 

長野や山形などの郷土食でもあるイナゴの佃煮

 国連食糧農業機関(FAO)が未来の食料として「昆虫食」を勧めるリポートをまとめたという。果たして昆虫食は世界の食糧難を救えるのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が考える。

 * * *
 昆虫は栄養価が高く採集も容易で、世界の未来のために理想的な食料になる――。国連食糧農業機関(FAO)がそんな報告書をまとめたという。CNNのWeb版は「国連機関が昆虫食のススメ、『栄養があって美味』」という見出しを打っていた

 記事中には「肉や魚に比べてタンパク質の含有量や質が高く、食物繊維や銅、鉄分、マグネシウム、リン、セレン、亜鉛などの栄養分も豊富」とか、「環境にも適応しやすいことから世界中のあらゆる場所で採集や飼育がしやすく」とか「安価で環境に優しい食料源になり得る」といいことずくめのように書いてある。

 ……。どうにも素直に首を縦に振りたくない。栄養があるのは理解できるとしても、もし「美味」ならば、見た目がどうであっても、とうの昔に世界中の食卓を席巻していたはずだ。仮に、「昆虫食」を前に進めるとしても、課題は山積みだ。全人類が虫を主食にしたとき、生態系への影響は本当にないのか。農薬や大気汚染の影響、採集や飼育の仕組みは? そして産業としてどう成立させるのか。

 例えばこの数年、全世界的に蜂群崩壊症候群が問題になっている。ミツバチが大量に失踪する現象で、ヨーロッパ、アメリカ、インド、中国……。2009年には日本でも長崎県でミツバチの大量死が発生した。農薬との関連が疑われているが、いまだすべての原因を解明するには至っていない。

 確かに昆虫やその幼虫を食べる民族はいる。僕自身、虫を食べる地域を訪れたときには、イナゴやハチノコ、ザザムシなどを口にもするし、そのときはおいしいとも感じる。でもそうした食文化が根づいていない土地で、虫を食べようとは思わない。いま境界を超えて親しまれている食べ物は、その土地に根づいたものが受け継がれ、その魅力が他地域でも受け入れられるものばかりだ。

 2008年に同機関が発表した資料では、アジア29か国、南北アメリカ23か国、アフリカ36か国で虫が食べられているという。

 壮大な話はわかった。だが、訪れるかもしれない食糧危機に対する備えが必要だとするならば、そして「美味」だというなら、国連食糧農業機関は本腰を入れて魅力的なメニュー開発を急ぐべきだ。現段階での「虫食」に対する印象は一定の嫌悪感を伴う。食文化として、世界に広く定着しているわけでもない。情報だけでは人は動かない。

 記者会見で「タイの専門家は、特にガの幼虫は味が良く、ハーブを添えて油で揚げるとおいしいと力説」したという。今年の3月には、マダガスカルではバッタが大量発生し、農作物が食い荒らされ、深刻な問題になった。本気で広めるつもりなら、魅力的なメニューを開発し、同機関に所属する欧米の委員が、ガやバッタなどの虫をおいしそうにもりもり食べる姿をYou Tubeで全世界に配信してはどうか。「理想的な食料」なのだから。

関連キーワード

関連記事

トピックス

バラエティー番組『孝太郎&ちさ子 プラチナファミリー 華麗なる一家をのぞき見』
コシノ三姉妹や石原4兄弟にも密着…テレ朝『プラチナファミリー』人気背景を山田美保子さんが分析「マダム世代の大好物をワンプレートにしたかのよう」
女性セブン
“アンチ”岩田さんが語る「大谷選手の最大の魅力」とは(Xより)
《“大谷翔平アンチ”が振り返る今シーズン》「日本人投手には贔屓しろよ!と…」“HR数×1kmマラソン”岩田ゆうたさん、合計2113km走覇で決断した「とんでもない新ルール」
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン
ソウル五輪・シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)銅メダリストの小谷実可子
《顔出し解禁の愛娘は人気ドラマ出演女優》59歳の小谷実可子が見せた白水着の筋肉美、「生涯現役」の元メダリストが描く親子の夢
NEWSポストセブン
ドラマ『金田一少年の事件簿』などで活躍した古尾谷雅人さん(享年45)
「なんでアイドルと共演しなきゃいけないんだ」『金田一少年の事件簿』で存在感の俳優・古尾谷雅人さん、役者の長男が明かした亡き父の素顔「酔うと荒れるように…」
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン