竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「客がツケを払わず海外赴任。回収するにはどうすればよいか」という質問が寄せられた。
【質問】
ホステスをしています。私には親しいお客さんがいるのですが、ツケを30万ほど残し、海外赴任してしまったのです。以前からツケを払ってほしいとお願いしていたのですが、逃げるように出国。このままだと私がツケをお店に払わなければいけなくなります。法的に彼に支払ってもらう方法はありませんか。
【回答】
法的にといわれると、30万円の売掛金の回収は、金額の割に手間がかかる上、男性の財産が日本国内にないと事実上困難です。立替金がある場合、法の手続きに則って回収するためには、まず裁判所に裁判や支払督促を申し立て、判決などの債務名義というお墨付きを手に入れ、この債務名義に基づいて裁判所に強制執行という回収手続きをしてもらうことになります。
勤め先がわかれば、この手続きを踏んで、月給を差し押さえることが効果的かもしれません。月給の4分の1までは差し押え可能ですから、一遍には回収できなくても、何か月かで30万円程度になると思います。また、債務名義をとる前にできる仮差し押えという手続きを取ると、会社にバレて慌てて支払ってくるかもしれません。
しかし不動産、預貯金、月給など回収財源がまったく捕捉できない場合には、法的回収の努力は無駄骨になります。そこで貴女がお店に立て替える義務についても検討したいところです。
貴女は、店とどのような関係になっているのでしょうか。給与もなく独立した個人事業者で、むしろ店を使わせてもらい、客も自分が連れてくるという場合であれば、その客の飲食代をあなたが負担するのは当然です。また店から報酬があっても歩合制で、客の実態はホステス任せというような場合にも同様にいえるかもしれません。
しかし店がホステスとの間で、客のツケを連帯保証させて、店を辞めるときには清算を義務付けるなどの契約を締結していたケースで、自由に辞められないことになり、よって退職の自由を制限した公序良俗違反となり、契約は無効だとした裁判例もあります。
貴女と店との契約内容、男性客との関係などから、立て替えが法的に有効であるのか、専門家に相談するのもよいと思います。
※週刊ポスト2013年6月21日号