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内閣法制局を「神のような存在」に持ち上げたメディアと議員

 新しい内閣法制局長官に外務省出身の小松一郎前フランス大使が就任した。読売新聞と日本経済新聞がさっそく小松長官にインタビューしている(いずれも8月17日付)。

 小松長官はこれまでの歴代長官が認めてこなかった集団的自衛権の行使を積極的に容認する立場とされる。私が記事で注目したのは次の部分だ。

「内閣法制局が(憲法解釈の)最終決定権を持っているという考えは誤解だ。法制局の役割は法律問題に関し、内閣や首相に意見を述べることだ。法律のエキスパートとして適切な意見を申し上げる使命を負っている」(日経の発言要旨)

 内閣法制局といえば普通、新聞のトップ記事になるようなニュースの発信源ではない。だが、与野党が激突するような場面では、野党が長官の答弁を求めて「長官はこう言っている。だから、政府の方針はおかしいじゃないか」と追及する際の助演役を演じることもしばしばだった。

 集団的自衛権のような憲法問題を含めて法律の解釈を示すのが仕事なので、政治的には中立であるかのような印象がある。メディアは「法の番人」というニックネームも付けた。小松長官は「それは誤解だ」と言ったのである。

 名前が示すように内閣法制局というのは内閣の一組織だ。法律はどうなっているかといえば、内閣法制局設置法第三条の三で「法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること」が仕事の一つと規定されている。

 小松長官は日経のインタビューで、わざわざこの点を指摘した。考えてみれば、こんな基本をあえて言わねばならないこと自体がおかしい。そんな歪んだ事態になったのは、与野党を含めた国会議員やメディアが役所にすぎない内閣法制局を「神のような存在」に祭りあげてしまったからだ。

 内閣法制局は役所であり、長官は官僚だ。憲法解釈の最終決定権は憲法第八十一条によって、最高裁判所にあると定められている。だから憲法解釈をめぐって論争があるなら、まずは国会で政府と野党が議論を尽くし、結論が出ないなら、最終的には最高裁の判断に委ねればいい。

 その際、内閣は法制局の助言を聞きながら自分たちの見解をまとめる。国会では、助言役にすぎない法制局長官が答弁に立つのではなく、まずは首相か官房長官、担当大臣が答えるのが筋だと思う。国の運命を左右するような重大問題で、国民に選ばれた政府の責任者ではなく、官僚である法制局長官が答弁するのは間違っている。

 さらに言えば、現状では内閣法制局の審査をパスしないと法案を閣議決定できない仕組みになっている。法制局が「ノー」といえば、閣議決定できないから国会に法律案を提出できない。これでは、法制局官僚が内閣の法案提出権さえも実質的に握っている、と言えるのではないか。

 霞が関官僚は自分たちに不利な法案をつぶそうと思えば、法制局に駆け込むことができる。政治家に対抗する官僚の最後の砦が内閣法制局になってしまうのだ。これは民主主義統治の原則に照らしてどうなのか。

 かつて民主党政権が誕生したとき、意欲に燃えた政権幹部の一人は「私は内閣法制局なんていらないと思う。衆参両院の法制局もある。国会で議論して不備があれば、そこで修正すれば十分だ。それが政治主導だと思う」と語っていた。その言葉をいま思い出す。

文■長谷川幸洋(ジャーナリスト)

※週刊ポスト2013年9月6日号

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