ビジネス

おひとり様OLで賑わう大戸屋 女性の自炊離れで定食屋需要増

 秋の味覚の代名詞、サンマがおいしい季節――。だが、近ごろは自宅で魚を焼く習慣がめっきり減ったために、一人暮らしの女性や家族連れが町中の“定食屋さん”を訪れる機会が増えたという。

 9月1日、日曜日。郊外のショッピングモール内でひと際行列ができていた外食チェーンが、『大戸屋ごはん処』である。お目当ては、同日より限定メニューに加えられた「釧路沖生さんま炭火焼き定食」。脂が乗ったサンマのほかに、ひじきの煮物や小鉢、ご飯とみそ汁がついて税込750円。家族4人で来ていた30代主婦に話を聞いてみた。

「マンションのキッチンには魚が焼ける専用オーブンもついていますが、においが漏れるし後片付けが大変なので、ほとんど使っていません(苦笑)。最近は手間のかかる煮物をつくることもめったにないので、大戸屋のように『家庭の味』が食べられる外食に頼りがちなんです」

 この家族は月に2回は大戸屋に行き、それ以外にも焼きたてのホッケやサバだけを持ち帰りにすることもあるという。都内の大戸屋では昼夜を問わず、男性よりも女性のおひとり様やOLが定食を頬張る姿も目立ち、女性の自炊離れが定食屋の経営を支えているといっても過言ではない。

 実は「女性に支持される大衆食堂」は、今でこそ『タニタ食堂』などが人気となっているが、大戸屋が先駆けだった。外食ジャーナリストの中村芳平氏がいう。

「焼き魚や煮物といったヘルシーな和食文化は、核家族化や独身女性の増加などによって失われつつありましたが、根強いニーズは常にありました。でも、女性ひとりでは、店が狭くて中もよく見えない個人経営の定食屋には入りにくかったのです。

 そこで、大戸屋はガラス張りで女性でも気軽に入れる店舗づくりを進めると同時に、カロリー表示つきでヘルシーなおかずを揃えました。ご飯も白米だけでなく五穀米やシラスご飯など、種類や量を自由に選べるメニューにして女性の声を徹底的に取り入れました」

 現在、大戸屋は関東を中心に国内で270店以上を展開し、安定した成長軌道を描き続けている。東南アジアや欧米で根強い日本食ブームがあることなどから海外展開にも積極的で、2014年3月の100店舗体制も見えてきた。

 だが、国内の大衆食堂市場は、ライバルも増え混沌としてきた。関西発症の『まいどおおきに食堂』(フジオフードシステム)や『やよい軒』(プレナス)といった定食屋チェーンもFC展開を軸に大量出店し、大戸屋を圧倒し始めている。

「『まいどおおきに食堂』は、出来たての総菜をカウンターにずらりと並べる関西風の食堂文化を全国に広めて成功しています。また、『やよい軒』は弁当チェーンの『ほっともっと』で培ったメニューの多さと、ご飯のおかわり自由というサービスも若者に受けています」(前出・中村氏)

 今後もさらなる競争激化が予想される定食屋チェーン。だが、意外にも生き残りのカギを握るのは、女性客のさらなる取り込みと同時に、「脱・定食業態」への転換だという。

「例えば、イタリアンのサイゼリアが昼過ぎの時間帯に喫茶店代わりに利用する女性客で賑わったり、夜になれば安いワイン目当てに居酒屋として利用するサラリーマンが増えたりと、いまや外食業界は業態のボーダーレス化が当たり前。

 定食屋チェーンも単にご飯やおかずを提供するだけでなく、デザートや酒類のメニューを増やして、いかに客単価を上げていくかが勝負となるでしょう。コンビニだってイートインスペースを増やせば立派な外食。いつ大戸屋のライバルになってもおかしくありません」(中村氏)

 確かにコンビニ各社は、個食用の和惣菜メニューやPB商品を増やして味にうるさい女性や高齢者らの舌をうならせている。「お袋の味」をめぐる戦いは、すでに業態の垣根を超えて次のステージに入っているのかもしれない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン