国内

元海軍二等兵は「武蔵」「信濃」「大和」沈没の瞬間を振り返る

 いまや戦後生まれが総人口の8割近く。先の大戦の記憶を持つ者は年々減ってきている。今こそ、あの大戦を振り返るべく、元日本軍兵士の証言を聞いてみよう。

証言者:幸愛志公(89) 元海軍駆逐艦「磯風」主計科

 大正13年生まれ。昭和19年1月大竹海兵団合格、7月駆逐艦「磯風」に乗艦して主計科配属。レイテ沖海戦、坊ノ岬沖海戦(沖縄水上特攻作戦)に参加。最終階級は二等兵曹。

 * * *
 大竹海兵団を卒業して呉海兵団に仮入団中の昭和19年7月、ハワイ作戦以来百戦錬磨の第17駆逐隊が呉と柱島の中間辺りに並んでおり、私は「磯風」に乗艦した。普段は烹炊所(厨房)で、乗員300名分のメシ炊き係だった。日中50度近くにもなるところで、フンドシ一丁での作業となる。

 レイテ沖海戦を前に栗田艦隊がブルネイに集結。一度にあれだけの艦船を見るのは初めてで頼もしかった。だが、出撃翌日の10月23日早朝に戦闘配食で握り飯を作っていた時に「ドスーン、ドスーン」と音が聞こえ、早くも重巡洋艦「愛宕」「摩耶」が敵潜水艦に撃沈されてしまった。

 翌24日にシブヤン海を通過中、敵空母艦載機編隊が猛攻撃を加えてきた。私の戦闘配置は後部二番主砲塔弾庫だったが、空襲の合間には烹炊所へ戻って作業した。

 途中、外を見るたびに味方艦の数が減っていった。集中攻撃を受けた味方戦艦が左舷側に傾きつつ前のめりになっていき、夜沈む時には後甲板に生存者がすずなりになっていた。「あれ『武蔵』らしいで」と誰かが言い、“不沈艦”の現実を思い知らされた。

 結局、レイテ突入を果たせず呉へ帰還することとなった。帰還中の11月21日未明にも攻撃を受け、戦艦「金剛」と第17駆逐隊「浦風」に火柱が立った。

 連合艦隊が大損害を受けたレイテ沖海戦後は、艤装完成のため横須賀から呉へ回航される世界最大の空母「信濃」(「大和」型三番艦を改造)の護衛を命ぜられた。「信濃」は11月29日未明に敵潜水艦の魚雷を受け、やがてグリグリ旋回しだすのが烹炊所から見えた。

 曳航を試みたが、巨艦を支えきれず曳航索(ロープ)が切れてしまった。目の前で「信濃」のスクリューが空回りし、飛行甲板の後ろから乗員がズルズルと滑り落ちて行った。全く戦果が無くこんな沈み方をするとは、いよいよ戦争は負けるなと思った。

 沖縄特攻作戦では戦艦「大和」を護衛し、昭和20年4月6日徳山沖を出撃。7日に敵機から至近弾を受け、機械室が故障した。電気が消えて、非常燈(赤ランプ)がついた。弾庫長が「上へ上がれー!」と叫ぶのが早いか、海水が入ってきた。砲塔に上がり、「来たぞ!」と声がしたと思うと、敵機が機銃掃射してきた。

 海水を烹炊所の一斗缶で汲み出そうと試みた時、「大和」の巨大な火柱が見えた。その後「雪風」移乗の命令が出て、「雪風」へと乗り移った。処分命令が出された「磯風」はその夜、「雪風」の砲撃により沈没。「磯風」がほぼすべての日米主要海戦に参加していたことを戦後改めて知り、乗船できたことを誇りに思う。

●取材・構成/久野潤(皇學館大学講師)

※SAPIO2013年10月号

あわせて読みたい

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン