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院生時代に書き方を厳しく指導されて今につながると作家解説

 純文学界の新人賞である芥川賞を『爪と目』(新潮社)で受賞した藤野可織氏(33)は、大学院では芸術学を専攻していた。現在の執筆活動と大学院時代の研究は、何か関係するところがあると考えているのか、藤野氏が語った。

 *  * *
 大学院での研究内容は文学とは直接関係ないものですが、論文の書き方に非常に厳しい先生のもとで学び、それが今につながっている部分はあります。美術作品などを研究対象に据えて論文を書くのですが、その対象となっている作品を正確に言葉で言い表わすことができないと駄目なんです。ビジュアルを正確に言葉にする。

 先生は常日頃から「できない人がすごく多い」と憤りつつ繰り返し指導してくださいましたが、やはりそれはある程度訓練しないと決して身に付かない技術なんです。だから、その時期に見たものを正確に書く訓練をさせてもらえたのは幸運でした。今でも、頭の中に浮かんだイメージを正確に記録するように心がけています。自分は記録するだけの書記係的な者であるという感覚で書いていく。

 もちろんプロの作家としてはもっとたくさんのことを求められるはずです。文學界新人賞をいただいてから7年経ちますが、今まで内にこもりすぎたと言いますか、作品を一人でいじくりまわしすぎていたという反省はあります。編集者にも見せないし、文芸誌にも何も掲載されないという時期が長かった。それはやはりすごく苦しいし、作品を発表していかなければ作家とは言えない。何とかこの状態を脱したいと思っていました。

 ただ、ありがたいことに今まで私はずっと自由に書かせていただきました。何万部売らなきゃいけないとかも一切言われたことはありませんし、自分の中で作品と向き合う時間を十分にいただいてきた。

『爪と目』も、最初に6割方仕上がったのを編集者に見せたあと、1年ぐらい寝かせていたんです。最初は三人称で書いていたんですが、それを一人称にしたり、しゃべり言葉にしたり……。推敲を重ねて最終的な形になりました。

 編集者は、「藤野は一体何をしているんだ?」と思っていたでしょうけれど、そのおかげで「あなた」と語りかける文体に行き着くことができた。これからも小説を書くにあたって、「この作品についてはもう精根尽き果てて、これ以上何もできない」というところまでやりたい。そういうやり方は、変えたくないです。

●藤野可織(ふじの・かおり)。1980年、京都生まれ。同志社大学文学部卒業。同大学院の文学研究科美学芸術学専攻博士課程前期に進学し、編集プロダクションでカメラマンのアシスタントなどを務める。その後、小説家への道を歩み始め、2006年に『いやしい鳥』で第103回文學界新人賞を受賞し、作家デビュー。2013年、『爪と目』で第149回芥川賞を受賞した。

※SAPIO2013年10月号

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