ビジネス

富士フイルム 祖業縮小と技術棚卸しで化粧品など稼ぎ頭生む

 かつては同社の利益の3分の2を叩き出していた富士フイルムのフィルム事業。だがその需要は、2000年をピークに急速にしぼんでいった。

 長く富士フイルムのライバルだった米イーストマン・コダックは昨年1月、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11章(チャプター11)を申請した。

 そのコダックを横目に、富士フイルムは大きな変革を遂げて再生した。2001年に連結子会社化した富士ゼロックスを含め、2013年3月期の連結売上高は2兆2147億円。営業利益は1141億円にのぼる。2000年度に約19%だった写真フィルムの売上高は現在、1%未満に過ぎない。

 そこで同社が実行したのは、写真フィルム事業の縮小という「ブレーキ」とそれに変わる新規事業を立ち上げていく「アクセル」とを同時に踏む施策だった。

 まずはブレーキ。

「写真フィルム事業から撤退はせず、継続可能な規模までダウンサイジングしようという戦略でした」(コーポレートコミュニケーション部)

 具体的には2005~2006年ごろにかけて、現像所や販売網を一気に減らし、世界で約1万5000人いた写真事業分野の従業員を約5000人削減した。国内では1000人規模のリストラとなった。

「国内でリストラの対象になったのは50代後半が中心で、上乗せ退職金が大きかったため、あまりギスギスした雰囲気にはならなかった」(ベテラン社員)とはいうが、祖業であり、社名であり、少し前まではコア事業だったフィルムに大ナタを振るうのは、まさに大英断だ。

 写真フィルムに携わっていた別の幹部社員は化粧品部門に異動し、「まるで転職したかのようだった」と当時の困惑を率直に語る。だからこそ他の多くの企業では、中心事業を絞り込んでいくことはなかなかできない。

 そうした構造改革に、同社は2500億円を費やした。巨費を投じるその決断を可能にしたのは「アクセル」だった。

 同社は2001年頃から、「技術の棚卸し」を行なっていた。社内にどんな技術があるのか、競争力がある分野は何なのか、その技術が使えるマーケットは何なのか。2年近くかけて、「シーズ(種)とニーズを整理した」(幹部社員)。

 それが現在の成長につながった。一つの例が、2004年に約1100億円を投じて新工場建設を決めた液晶ディスプレイに用いられる「タックフィルム」である。現在では世界シェア70%、タックフィルムを含めたフラットパネルディスプレイ材料事業全体で年間1500億円以上の売り上げを誇る。

 さらに同社では化粧品、医薬品、医療用機器など、新しい稼ぎ頭が次々と生まれた。

「リストラを終えた翌07年度には、史上最高益を記録しました。縮小均衡では社員のモチベーションが下がってしまいますが、同時に新事業に投資してすぐに結果が出たから成功した。古森重隆会長(兼CEO)は常々、改革には『スピードとスケール』『テンポとダイナミズム』が必要だと言っており、それが功を奏した形です」(幹部)

※SAPIO2013年11月号

関連記事

トピックス

62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《累計閲覧数は12億回超え》国民の注目の的となっている宮内庁インスタグラム 「いいね」ランキング上位には天皇ご一家の「タケノコ掘り」「海水浴」 
女性セブン
高市早苗・首相はどんな“野望”を抱き、何をやろうとしているのか(時事通信フォト)
《高市首相は2026年に何をやるつもりなのか?》「スパイ防止法」「国旗毀損罪」「日本版CIA創設法案」…予想されるタカ派法案の提出、狙うは保守勢力による政権基盤強化か
週刊ポスト
ネックレスを着けた大谷がハワイの不動産関係者の投稿に(共同通信)
《ハワイでネックレスを合わせて》大谷翔平の“垢抜け”は「真美子さんとの出会い」以降に…オフシーズンに目撃された「さりげないオシャレ」
NEWSポストセブン
今の巨人に必要なのは?(阿部慎之助・監督)
巨人・阿部慎之助監督「契約最終年」の険しい道 坂本や丸の復活よりも「脅かす若手の覚醒がないとAクラスの上位争いは厳しい」とOBが指摘
週刊ポスト
大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平、不動産業者のSNSに短パン&サンダル姿で登場、ハワイの高級リゾードをめぐる訴訟は泥沼化でも余裕の笑み「それでもハワイがいい」 
女性セブン
中居正広氏の近況は(時事通信フォト)
《再スタート準備》中居正広氏が進める「違約金返済」、今も売却せず所有し続ける「亡き父にプレゼントしたマンション」…長兄は直撃に言葉少な
NEWSポストセブン
不倫報道の渦中にいる永野芽郁
《ベリーショートのフェミニスト役で復活》永野芽郁が演じる「性に開放的な女性ヒロイン役」で清純派脱却か…本人がこだわった“女優としての復帰”と“ケジメ”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の一足早い「お正月」》司組長が盃を飲み干した「組長8人との盃儀式」の全貌 50名以上の警察が日の出前から熱視線
NEWSポストセブン
垂秀夫・前駐中国大使へ「中国の盗聴工作」が発覚(時事通信フォト)
《スクープ》前駐中国大使に仕掛けた中国の盗聴工作 舞台となった北京の日本料理店経営者が証言 機密指定の情報のはずが当の大使が暴露、大騒動の一部始終
週刊ポスト
新恋人A氏と交際していることがわかった安達祐実
安達祐実、NHK敏腕プロデューサーと「ファミリー向けマンション」半同棲で描く“将来設計” 局内で広がりつつある新恋人の「呼び名」
NEWSポストセブン
還暦を迎えられた秋篠宮さま(時事通信フォト)
《車の中でモクモクと…》秋篠宮さまの“ルール違反”疑う声に宮内庁が回答 紀子さまが心配した「夫のタバコ事情」
NEWSポストセブン
熱愛が報じられた長谷川京子
《磨きがかかる胸元》長谷川京子(47)、熱愛報道の“イケメン紳士”は「7歳下の慶應ボーイ」でアパレル会社を経営 タクシー内キスのカレとは破局か
NEWSポストセブン