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甲子園目指さずプロ目指すこと徹底の芦屋学園野球部 利点複数

 日本のプロ野球界では、外国人選手を別にすれば、日本の高校の野球部員として甲子園出場を目指した経験のない選手は皆無といっていいだろう。そんな球界に新風を吹き込めるか。10月2日、兵庫県の学校法人「芦屋学園」の芦屋学園高校が、「甲子園を目指さずにプロになる」という画期的な試みを発表した。

 同校では、来年4月に硬式野球部を創設する。しかし、一般の高校野球部のように高野連には所属せず、関西独立リーグ「兵庫ブルーサンダーズ」傘下の育成軍(三軍)として活動する。

 高野連に所属しないため、他の高校との試合はできない。当然、高校野球の「聖地」である甲子園は目指せない。高校時代から独立リーグで活動し、一足飛びでプロ野球選手を目指すという試みだ。もちろん、日本では初めての事例である。

 芦屋学園は昨年、トップアスリートを講師に招いて、幼稚園から大学までの一貫教育でアスリートを育てようという「スポーツモダニズムプロジェクト」を始動した。例えばボクシングでは、元WBAバンタム級世界王者の六車卓也氏を監督に招聘するなどの試みが展開されている。

 このプロジェクトのリーダーとして迎えられたのが、同志社大、神戸製鋼で活躍、ラグビー日本代表としてキャップ数30を誇る大八木淳史氏(52)だ。現在は中学、高校の校長を務める同氏が語る。

「野球では昨年から大学にブルーサンダーズの二軍を創設しました。すでに各球団のスカウトが視察に訪れています。これを来季からは高校野球にも広げる。プロになりたくても、強豪校に馴染まなかったり、失敗してふるいにかけられたりした子供たちには、これまでなかなかプロへ進むチャンスがなかった。この仕組みならプロに近い子はよりプロに近づけるし、野球好きな子がもっと楽しくプレーできる環境を与えられると考えています」

 メリットは複数ある。まず高野連の既存の枠組みから外れるために、プロアマ規定で禁じられているプロからの指導が受けられる。同高野球部には阪神OBである片岡篤史氏が週に1~2回、阪神二軍監督の平田勝男氏がシーズンオフに客員教授として巡回コーチにやってくる予定だ。

 また、一般の高校とは試合できないが、社会人チームや独立リーグの下部チームなどと試合をすることで、実戦感覚を維持できる。兵庫ブルーサンダーズの高下沢・球団代表が語る。

「今後は独自のチャレンジリーグを組織して試合を行なう予定です。6月と10月に社会人、独立リーグ下部組織、専門学校を集めて、年間64試合を想定しています。高校野球は年間平均90試合なので、ちょうどいい数だと思っています」

 試合では金属バットではなく、木製バットを使用する。あくまで狙いは「プロになること」なのだ。

 そして見逃せないのが、甲子園に出ないことでもたらされる「悪習からの脱却」だ。今年春のセンバツ、9日間で772球を投げた済美(愛媛)の安楽智大投手のように、甲子園では連投による弊害が指摘されてきた。また夏の大会では、炎天下でのプレーによる体への悪影響も心配されている。しかし前述のスケジュールの通り、このチームなら選手が酷使による怪我をする危険性は格段に減る。

 まだある。子供が挫折した時の“セーフティネット”だ。従来の強豪校では、野球部からドロップアウトしても、学校の中でどうしても部長や監督に出会う機会があり、生徒がその後の学園生活を送りづらいという面があった。

「しかし本校の仕組みは、あくまでクラブチームとの教育での連携。ブルーサンダーズで野球をやりたい子に対し、芦屋学園で面倒を見るということなので、野球を辞めればチームから完全に離れる。学園生活に支障はありません。それに選手として挫折しても別の道が示せる。クラブチームでプレーした経験から、球団運営に関わる道を選ぶこともできる。好きな野球に関連した第二の人生が開けます」(大八木校長)

※週刊ポスト2013年10月25日号

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