スポーツ

元阪急・名スカウト指南 どんな口堅い人でも場が和む会話術

 プロ野球界において、各チームに必ず存在するのが、全国を回って有力選手を探しだすスカウトたち。名スカウトとして有名だった元阪急の丸尾千年次について、スポーツライターの永谷脩氏が綴る。

 * * *
 松井裕樹(桐光学園)は、森友哉(大阪桐蔭)は、どの球団に指名されるのか。24日のドラフト会議で彼らの運命が決まる。かつてパ・リーグ広報部長だった伊東一雄が読み上げていた、「第一回選択希望選手、読売……」という声を、神の声にも似た心境で聞く人も多かった。

 そんなドラフト制度ができる前から、名スカウトとして有名だったのが丸尾千年次だ。阪急では投手として7勝9敗。引退後、1950年にスカウトに転向し、米田哲也や山田久志らを発掘、江川卓の交渉も担当した。

「高校野球がまだ木製バットの時代には、甲子園大会中、居眠りをしていても、芯を捉えた音はすぐにわかった。金属バットになって芯がなくなったから、いい打者かどうか、音で判断できなくなった」

 丸尾はこうこぼしていたが、酔うと「俺はどうせ人買い稼業だよ」と、自嘲気味に語っていたのを思い出す。

 重たそうなバッグには、当時のスカウトの「8つ道具」が入っていた。カメラ、録音テープ、スコアブックにメモ帳、赤黒2色のボールペンには必ず替え芯が2本。全国各地を回るための時刻表に、日本のどこでも金を下ろせる郵便局の通帳に加えて、正露丸。今では考えられないような手作業で、選手の発掘のため、全国に足を運んでいた。

 酒を飲みながら、軽い口調で人との接し方の一端を話してくれた。それは、一般の社会人にも役立つことだった。

「初めての家を訪問する時には約束の1時間前に到着し、家の周りをぐるりと回ると、家主の趣味が分かる。それをきっかけに話に入れば、どんな口の堅い人でも場は和むものだよ」
「初対面の人に会いに行くときには必ず手土産を下げていけ。駅の売店で買ってはダメ。地元の名産品がいい。手短に済ませたと思われたくないからね」

 有望選手の名前は、絶対に自分の口からは教えてくれなかった。ただトイレに立った時、普通は裏返しにして置くリストが、無造作に表のまま置かれていたことがあった。「見るのは勝手」という意志表示、しっかりと瞼に焼き付けた。そんな粋なことができる人だった。

 古き良き曖昧な文化の中に生きた、職人がそこにいた。

※週刊ポスト2013年11月1日号

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン