国内

小泉純一郎元首相の脱原発論は安倍晋三政権にも影響を及ぼす

 小泉純一郎元首相の脱原発論が波紋を広げている。講演会を開くたびにマスコミで発言内容が報じられ、勢いは衰えるどころか、ますます火が燃え広がりそうな様子だ。はたして、小泉の脱原発論は安倍晋三政権にも影響を及ぼすのか。

 結論から言えば、私は「及ぼす」と思う。いま直ちに影響を与えることはないとしても、時間が経つにつれて、漢方薬のように効いてくるだろう。なぜかといえば、元首相の脱原発論は問題の核心をずばりと突いていて、実は反論の余地がないからだ。

 小泉がどう言っているか。10月1日に名古屋市で開かれた講演を報じた『週刊現代』によれば次のようだ。

「原子力発電によって電気が供給される過程で出てくる放射能の廃棄物、私は『核のゴミ』という言葉を使っていますが、この核のゴミの捨て場所がない。(中略)処分する場所のあてもないのに原発を進めていくほうが、よほど無責任なんじゃないか、というのが私の主張なんです」

 原発の最大の問題はゴミの最終処分をどうするかだった。元首相はここに正面から向き合って、ずばり「答えがないなら止めるべきだ」と斬り込んだのである。

 政策には「選択の余地があって、選び方次第で現実を変えられる政策」と「現実は変えられず、適応する以外にない政策」がある。たとえば財政金融政策は前者だが、原発は後者である。

 政治家が「政策次第で現実をなんでも思い通りに変えられる」と考えるのは、思いあがりだ。私は小泉元首相のメッセージを「もはや変えられない現実にどう適応するか」という謙虚で柔軟な主張と受け止めた。

 小泉純一郎といえば、政権担当当時は原発推進の旗を振って、プルサーマル発電による核のリサイクル政策を熱心に進めた。だから「いまさら脱原発とは無責任」という批判や憤りがある。

 私は、まったくそう思わない。この連載の初回に書いたように、反主流派が異論を唱えることで世の中は少しずつ良くなっていく。だが、反主流派は権力を握った途端に主流派に転じる。

 今回の小泉はそれとは正反対で、かつての主流だった原発推進派が権力の座を離れてから、反主流の脱原発派に転じた。そのどこが悪いのか。そうやって主流と反主流、正統と異端が互いに入れ替わり意見を戦わせていくことで、社会が進歩していくのだ。(文中敬称略)

文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『政府はこうして国民を騙す』(講談社)

※週刊ポスト2013年11月8・15日号

関連記事

トピックス

昭和館を訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年12月21日、撮影/JMPA)
天皇ご一家が戦後80年写真展へ 哀悼のお気持ちが伝わるグレーのリンクコーデ 愛子さまのジャケット着回しに「参考になる」の声も
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
《ジャンボ尾崎さん死去》伝説の“習志野ホワイトハウス豪邸”にランボルギーニ、名刀18振り、“ゴルフ界のスター”が貫いた規格外の美学
NEWSポストセブン
西東京の「親子4人死亡事件」に新展開が──(時事通信フォト)
《西東京市・親子4人心中》「奥さんは茶髪っぽい方で、美人なお母さん」「12月から配達が止まっていた」母親名義マンションのクローゼットから別の遺体……ナゾ深まる“だんらん家族”を襲った悲劇
NEWSポストセブン
シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン
愛子さまのドレスアップ姿が話題に(共同通信社)
《天皇家のクリスマスコーデ》愛子さまがバレエ鑑賞で“圧巻のドレスアップ姿”披露、赤色のリンクコーデに表れた「ご家族のあたたかな絆」
NEWSポストセブン
1年時に8区の区間新記録を叩き出した大塚正美選手は、翌年は“花の2区”を走ると予想されていたが……(写真は1983年第59回大会で2区を走った大塚選手)
箱根駅伝で古豪・日体大を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈3〉元祖“山の大魔神”の記録に挑む5区への出走は「自ら志願した」
週刊ポスト
12月中旬にSNSで拡散された、秋篠宮さまのお姿を捉えた動画が波紋を広げている(時事通信フォト)
〈タバコに似ているとの声〉宮内庁が加湿器と回答したのに…秋篠宮さま“車内モクモク”騒動に相次ぐ指摘 ご一家で「体調不良」続いて“厳重な対策”か
硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将(写真/AFLO)
《戦後80年特別企画》軍事・歴史のプロ16人が評価した旧日本軍「最高の軍人」ランキング 1位に選出されたのは硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将
週刊ポスト
米倉涼子の“バタバタ”が年を越しそうだ
《米倉涼子の自宅マンションにメディア集結の“真相”》恋人ダンサーの教室には「取材お断り」の張り紙が…捜査関係者は「年が明けてもバタバタ」との見立て
NEWSポストセブン
死体遺棄・損壊の容疑がかかっている小原麗容疑者(店舗ホームページより。現在は削除済み)
「人形かと思ったら赤ちゃんだった」地雷系メイクの“嬢” 小原麗容疑者が乳児遺体を切断し冷凍庫へ…6か月以上も犯行がバレなかったわけ 《錦糸町・乳児遺棄事件》
NEWSポストセブン
11月27日、映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を鑑賞した愛子さま(時事通信フォト)
愛子さま「公務で使った年季が入ったバッグ」は雅子さまの“おさがり”か これまでも母娘でアクセサリーや小物を共有
NEWSポストセブン
ネックレスを着けた大谷がハワイの不動産関係者の投稿に(共同通信)
《ハワイでネックレスを合わせて》大谷翔平の“垢抜け”は「真美子さんとの出会い」以降に…オフシーズンに目撃された「さりげないオシャレ」
NEWSポストセブン