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富士フイルムの化粧品事業 写真で培ったナノ化技術が貢献

 10数年前まで利益の6割以上を叩き出した写真フィルムがパタッと売れなくなり、存亡の危機に立たされていた富士フイルム。それが現在では2兆円以上の売上高を誇るマルチ企業へと成長を遂げている。

 V字回復を果たした大きな要因は事業の多角化だが、さすがに化粧品に参入したことは業界を驚かせた。話題になったのは、2007年に発売されて大ヒットしたスキンケアの「ASTALIFT」シリーズである。ここには、写真フィルムで培った技術が活かされた。

 フィルムは肌と同じく多くのコラーゲンで構成されている。また、写真の色あせを防ぐ抗酸化技術も化粧品に応用できた。肌の老化は酸化によって起きるからだ。

 アスタリフトが世の中に広がるにつれて、化学反応のように社内にも変化が起こった。R&D統括本部医薬品・ヘルスケア研究所統括マネージャーの中村善貞氏(54)が語る。

「『こんな技術があるのだけれど、化粧品に使えるかもしれない』と、社内から申し出が相次ぎました。これにより、埋もれていた技術が化粧品分野に応用できることがわかってきました」

 今年9月に発売されたニキビケア化粧品「ルナメアAC(アクネケア)」も、その技術を利用したものだ。

 これまで一般的なニキビケア化粧品には、「水溶性」の有効成分が配合されていた。しかし、毛穴の内部は脂性。水は脂にはじかれる。結果、有効成分が毛穴に届かない富士フイルムはその点に着目。「油溶性」の有効成分を使うことにした。

 もちろん油溶性成分のほうが毛穴に届きやすいことは他社も把握していた。なぜ他社にはできず、富士フイルムにはできたのか。

「写真フィルムで培ったナノ化技術です。有効成分・グリチルレチン酸ステアリルを複数の保湿成分と組み合わせ、80nmまでナノ化することで化粧水に溶けやすくしました。そのことで毛穴の脂に引き寄せられるように有効成分が毛穴に浸透します。他社はこの技術を持っていなかったのです」(中村氏)

 今でこそ知られるようになった富士フイルムの化粧品だが、参入当初はチャネルがなく通信販売でのスタートだった。店頭での販売が本格的に始まったのは2008年だった。

「なぜフィルム会社が化粧品を?」

 当時、営業現場では必ずこの質問が飛んだ。中村氏は研究者でありながら営業マンとともに客先を訪問し、フィルムの技術をベースとした製品の優位性を説いたという。

 化粧品グループ統括マネージャーの遠藤一利氏(57)は1981年に入社。長く「写ルンです」などの営業に従事してきた。ところが2008年、突然化粧品の営業担当に。

「はじめは多くの男性と同様、化粧水や美容液、クリーム、乳液などの違いや、どんな順番で使うのかも分からず苦労しました。ドラッグストアやGMS(総合スーパー)などそれまで扱っていた商品と営業先は同じでしたが、写ルンですと化粧品では担当者・バイヤーさんが違います。一から顧客を開拓していくようなものでした」(遠藤氏)

 営業の大きなツールとなったのが、同社の“頭脳”ともいえる先進研究所(神奈川県)だった。遠藤氏はバイヤーを先進研究所に連れて行った。

「その作戦はうまくいきました。実は、写ルンですを営業していた時も同じように工場を見てもらって、営業先との人間関係を構築しました。先進研究所にお連れすると、人間関係ができるだけでなく、化粧品の技術的背景も理解してもらえて、話が進みやすくなるのです」(遠藤氏)

 また、マーケティンググループPRの武田靖子氏(36)は「製品発表についても、科学的な知見を強調して発信しています。発表会はまるで大学の授業のようだと言われることもあります」という。

 一般に化粧品の発表会はCMに使うタレントを登場させるなど、華やかさやイメージ戦略を前面に打ち出すケースが多い。対して後発の同社は「科学の裏付け」がアイデンティティなのだ。

※SAPIO2013年11月号

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