11月のある日、京浜急行〈梅屋敷駅〉から徒歩15分、東京・大田区〈西富士見児童公園〉に行った。メディアが殺到している。かつて、女児が捨てられていた公園である。
被疑者は32才の夫と31才の妻。ふたりはこの10月末、過去に3人の子を捨てた容疑で逮捕された。
公園に5台のベンチ、滑り台、時計台が据えられている。2年前、まだ寒気が厳しい3月の夜10時、嬰児は毛布にくるまれ、奥のベンチに置き去りにされていた。へその緒がつながったままだった。
夫婦がその時に住んでいたアパートを探した。梅屋敷駅から徒歩5分、2階建ての木造アパート〈コーポH〉。公園とは正反対の方角にあった。夫婦の階下に住んでいた男性の話――。荷物を全部置いて夜逃げした。女は蒲田近辺で水商売をやっていたらしい。地味で、きれいではなかった。男は、ほとんど家にひっこんでいた。ぽちゃぽちゃと肥えていた。
部屋は足の踏み場もなかった。家賃5万4000円。
「う~ん。お腹が大きい? まったく気がつかなかった」
大家さんの印象も変わらない。まさか妊娠していたとは。まさか公園に赤んぼうを捨てていたとは、と嘆息する。だが、ひとつだけ、大家でなければ見られないものを目にしていた。死んでいないか、確かめに行った。
「電気のメーターが動いてないんで、鍵もって中入ったの。そしたら姿が見えない。テレビもない。前にもいっぺん生きてるのかと、開けたことがあって。家賃たまって催促行っても、居留守使われてたもんで。2度目のそん時、アレッ、いない。と、思ったら、布団の端が動くのよ。
いるかい? ああ。生きてるかい? ああ。そうか生きてんだ、なら、よかった。でも、布団のまわりはカップラーメンのカラばっかり。家賃取るのが気の毒で、と思ったら夜逃げされちゃった」
つっかえ棒のない、社会の隅の隅の人生が垣間見える。
※女性セブン2013年11月21日号