水曜どうでしょう制作陣(右が藤村忠寿氏、左は嬉野雅道氏)

 人に見せる作品を作るとき、僕が大事だと思うことは「人の意見には、あまり耳を傾けないこと」です。こう書くと「自分の好きなように自由にやる」という意味にとらえられるかもしれませんが、そうではありません。

 むしろ、人から正当な評価を受けるためには、制作過程では、雑音を入れずに作ったほうが良いということです。

 雑音(いろんな立場の人の意向とか、個人的感想とか、視聴率のようなデータとか)を耳に入れ過ぎると、その作品がどんどん自分の手元を離れ、コントロールがきかなくなり、最終的に自分自身が作品に対して無責任になってしまいます。渾身の力をふりしぼる前に、雑事に追われて疲れるだけです。

 そして、僕が思うもうひとつの大事なことは「人の意見は、無節操に取り入れる」ということです。これ、明らかに矛盾しています。さっきは「人の意見を聞くな」と言ったのに、今度は「取り入れろ」と言っている。

 要は、まったく人の意見を聞き入れずに自分の考えだけで人に見せるものを作ると、どこかで客観性を見失ってしまいます。見失わないためには、良いと思う意見には、自分の思い入れなど簡単に捨てて、サッと取り入れるぐらいの柔軟性が必要だということです。

 宮崎さんはドキュメンタリー番組の中で「わからないやつは見なくていい。これは、わかってくれる大人に見てほしいんだ」と言ったあと、今度は笑いながらこう言っていました。「でもやっぱり子供にも見てほしいって思っちゃうんだよねぇ」って。

「大人がわかってくれればいい」という強い意志と、笑いながら言った「でも子供にも見てほしい」という柔らかい感性。この矛盾するふたつの姿勢を自分の中に常に同居させることこそが、人に見せる作品を作るためには必要だと僕は思います。

 宮崎さんが、精根尽き果てるまで作る長編アニメーションはもう見られないかもしれないけれど、でも、またなにか、見せてくれるのではないかと、僕は思っています。それがきっと、宮崎駿という人が、死ぬまで持ち続けている性でしょうから。楽しみに待っています。

【藤村忠寿/ふじむら・ただひさ】
1965年愛知県出身。90年に北海道テレビ放送(HTB)に入社後、編成業務やCM営業に携わり、1995年に本社制作部に異動。1996年チーフディレクターとして「水曜どうでしょう」を制作する。同番組は出演者に行き先や企画を伝えずに国内外を旅するバラエティー。過去の放送を編集したDVDは19シリーズで累計300万枚超の販売を記録している。

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