ライフ

銀行や役所で記入する書類の見本はなぜ「山田太郎」なのか

 銀行や役所などで記入する書類の見本や、定期券を作るために書く申込書の記入例、病院の問診例──そこに書かれる名前の例は、ほとんどが「山田太郎」である。でも、なぜ「山田太郎」なのか、その理由を考えたことがあるだろうか? 名字研究の第一人者、森岡浩氏が語る。

 * * *
 まず、名前のほうはわかりやすいですね。江戸時代以前から、最初に生まれた男の子は「太郎」で、次は「次郎」とする慣習があり、明治以降も続いています。長男と次男では、当然長男のほうが多いため、男の子の名前の代表が「太郎」になるのは自然だといえます。
 
 では名字はどうか。日本で一番多い名字が「佐藤」ですし、次点は「鈴木」です。実は、「山田」はトップテンにも入っていません。
 
 では、どうして? この謎が、あなたを名字の奥深い世界へと誘うきっかけとなります。
 
「山田太郎」の謎を解く鍵は“見本の果たす役割”にあります。見本は誰が見ても“普通だな”と思われることが重要です。
 
 たとえば、見本を「佐藤太郎」にするとある不都合が生じます。西日本出身の人にとって、その名前はあまり“普通”と感じられないのです。
 
 日本で一番多い「佐藤」や2番目の「鈴木」は、東日本には多いが、西日本ではトップテン圏外の府県も少なくありません。地域によっては、むしろ「珍しい名字」でもあるのです。つまり東日本では普通だと感じても、西日本では普通ではない。逆に全国で4番目の「田中」は西日本に多く、東日本では少ない。このように名字の分布には地域的な偏りがあります。
 
 その意味で、「山田」は完璧です。名字ランク上位では、「中村」「山田」「山口」「池田」が地域的な偏りのない名字に該当します。しかも名字に使われる漢字のトップ5は「田」「野」「川」「山」「谷」。この両方の要素を兼ね備えているのが、「山田」となります。つまり、全国でもっとも親しみを感じる人が多い名字が「山田」であり、これに男の子の代表的な名前の「太郎」を組み合わせた「山田太郎」は、最も“普通っぽい名前”ということになるのです。
 
 証拠といっては何ですが、野球漫画『ドカベン』の主人公を「山田太郎」とした理由について、作者の水島新司氏は、「平凡なイメージが欲しかった」と雑誌のインタビューで答えています。
 
 全国規模の名字ランキングが初めて作られたのは、昭和40年代でした。しかし、おそらく「山田太郎」の見本はそれよりも早く使われていたはず。全国的な見本の名字に「山田」を使ったことは完璧な選択だったといえます。

※週刊ポスト2014年1月17日号

関連記事

トピックス

中居の近影をキャッチ(2025年12月下旬)
《ゴルフ用ウェアで変装して百貨店に…》中居正広、外出頻度が増えている 表舞台では“盟友たち”が続々言及する理由
NEWSポストセブン
16年ぶりに写真集を出す皆藤愛子さん
16年ぶり写真集発売の皆藤愛子 「少し恥ずかしくなるくらいの素の姿や表情も、思い切って収めていただいています」
週刊ポスト
サッカー日本代表・森保一監督
サッカー日本代表・森保一監督 優勝を目標に掲げるW杯への意気込み「“日本人ならできる”という姿勢を示し、勇気や自信を届けたい」 
女性セブン
トランプ大統領と、金正恩氏(AFP=時事)
トランプ大統領は金正恩氏を「マドゥロ方式」で拘束できるのか──荒唐無稽と笑えなくなった国際政治の危険な“初夢”
NEWSポストセブン
中国人インフルエンサーがカンボジアの路上で変わり果てた姿で発見された(TikTokより)
《へそ出しタトゥー美女の変わり果てた姿》中国インフルエンサー(20)がカンボジアの路上で発見、現地メディアに父親が答えた“娘と最後に連絡した日”【髪はボサボサ、うつろな表情】
NEWSポストセブン
プロ棋士の先崎学九段(左)と日本推理作家協会の将棋同好会代表を務める小説家の葉真中顕氏
【2026年の将棋界を展望】崩れ始めた「藤井聡太一強」時代、群雄割拠を抜け出すのは誰か? 伊藤匠二冠だけじゃないライバルたち、羽生世代の逆襲はあるか【先崎学氏×葉真中顕氏対談】
週刊ポスト
米国によってニコラス・マドゥロ大統領が拘束された(時事通信フォト)
《大統領拘束を歓迎するベネズエラ国民の本音》「男女ともに裸にし、数日間眠らせず、窒息を繰り返させる…」国連に報告されていた“あまりに酷い拷問のリアル”
NEWSポストセブン
運転席に座る中居(2025年12月下旬)
《三歩下がって寄り添う高級ジーンズ美女》中居正広を今もダンサー恋人が支える事情「この人となら不幸になってもいい…」過去に明かしていた結婚観との一致
NEWSポストセブン
一般参賀にお姿を見せた上皇さまと美智子さま(時事通信フォト)
《新年を寿ぐホワイトドレス》「一般参賀に参加いただく必要があるのか?」美智子さま“お手振りなし異変”報道で波紋…上皇ご夫妻が行事に込める「内に秘められた心の部分」
NEWSポストセブン
新宿の焼肉店で撮影された動画が物議(左は店舗のInstagramより、右は動画撮影者より提供)
《テーブルの上にふっくらとしたネズミが…》新宿・焼肉店での動画が拡散で物議、運営会社は「直後に殺処分と謝罪」「ねずみは薬剤の影響で弱って落下してきたものと推察」
NEWSポストセブン
新年一般参賀に出席された秋篠宮家次女・佳子さま(2026年1月2日、撮影/黒石あみ)
《新年一般参賀で見せた“ハート”》佳子さま、“お気に入り”のエメラルドグリーンドレスをお召しに 刺繍とハートシェイプドネックがエレガントさをプラス
NEWSポストセブン
茨城県水戸市のアパートでネイリストの小松本遥さん(31)が殺害された
《水戸市・31歳ネイリスト女性死亡》「『誰かのために働きたい』と…」「足が早くて活発な子」犯人逃走から6日間、地元に広がる悲しみの声
NEWSポストセブン