気づかなかった。金具の強度や可動性にばかり気をとられ、「美しさ」に目を向けることを忘れていたのだ。
改良に没頭する日々が始まった。強度を保ちながらフレームのラインを細くすることでチェアの自重を軽くし、金具を小型化。金具の取り付け位置も外から見えないように工夫した。
だが山田は、これだけでは満足しなかった。「テーブルに引っかけたときの美しさ」にもこだわったのだ。
「ダイニングテーブルに引っかけたときに、チェアが水平になるようにしたかったのです。チェアが傾くと脚がロボット掃除機にぶつかってしまう可能性もあります。金具の位置を何度も微調整して、安定して美しくテーブルに引っかけられるようにしました」
2013年春、山田の改良試作品は、今度は見事に社長のお眼鏡にかない、製品化が決定した。同年10月下旬、“おそうじらくらくダイニングチェア”『フローティア』という名で発売された。
「発売後1年間で、チェア4脚とダイニングテーブルとの5点セットで1000組、売上高1億5000万円」と目標は高いが、家具店のみならず、家電量販店などからも問い合わせが急増している。(文中敬称略)
■取材・構成/中沢雄二
※週刊ポスト2014年2月7日号