近年では、インターネットの普及により、マイナーな趣味であっても“同好の士”を探すことが容易になった。しかし、同じ趣味を持つ人がいるからといって、それが全ての人に理解されるかといえば、それはまた別の話。「女装」の趣味がバレて、妻から離婚を求められた場合について、弁護士の竹下正己氏はこう回答している
【質問】
結婚30年目にして妻から離婚を求められています。これまでの30年間、申し分のない夫婦だと思っていたのですが、私の唯一の趣味である「女装」がバレて大騒ぎになったのです。離婚調停を起こされた場合、女装の趣味は問題となりますか。そもそも個人の趣味が原因での離婚はあり得るのでしょうか。
【回答】
配偶者の趣味だけで、離婚が認められることはあり得ません。
協議離婚や調停離婚ができない場合に、裁判離婚を求めることになりますが、裁判所が離婚を認めるには民法の定める離婚事由として不貞行為、悪意の遺棄や回復の見込みがない強度の精神病、3年以上の生死不明のほか「婚姻を継続し難い重大な事由」が必要です。「趣味」自体が離婚事由になるのではなく、趣味が高じて、二人の関係が回復できなくなった場合に初めて、この「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められます。
趣味も様々ですが、パチンコやギャンブルに凝って生活苦になるケースは散見します。趣味にふけって家庭を顧みなくなり、愛想を尽かされる場合もあるでしょう。趣味ではありませんが、宗教にはまった配偶者が布教活動に専念するだけでなく、相手に信仰を無理強いし、婚姻関係の破たんを認めたような例もあります。
趣味は、生活の潤いですし、信仰は心の支えですから、節度を守っていれば、離婚事由をきたすようなことはありませんが、常識の程度を超えて極端になることで、相手方が愛情を喪失し、婚姻関係の修復が不可能になると「重大な事由」に該当します。その場合、そうした事態を引き起こした配偶者(有責配偶者)からは離婚を請求できません。
以上のとおり、離婚裁判で問題になるのは、趣味の当否ではなく、その結果、婚姻関係が破たん状態になったかどうかと、その責任です。夫の「女装趣味」を知った妻が、夫への尊敬の念や愛情を一挙に失ってしまうことは理解できますが、離婚事由までになるかは、なんともいえません。
30年連れ添った夫婦が、外聞は悪いが無害な趣味で離婚になるのは残念でしょう。趣味を止め、夫としての信頼を取り戻すべく努力されてはいかがですか。
※週刊ポスト2014年3月7日号