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同性愛者の日常撮影した作品が受賞 木村伊兵衛写真賞の特色

 戦前・戦後、近代写真の第一人者として、日本の写真界を牽引した木村伊兵衛(1901~1974)。氏の名を冠した「木村伊兵衛写真賞」は、写真界の芥川賞といわれ、これまで数々の著名な写真家を輩出してきた。2月5日には第39回の受賞者が発表され、同性愛者の日常などを扱った森栄喜氏が受賞した。

「木村伊兵衛写真賞」が他の写真賞と違うのは、その時代の空気感が大きく関与している点だ。森氏の作品は、同性愛者である自身と友人を被写体に日常を記録したもの。同性愛者をカミングアウトした写真家の受賞は、この賞が時代の空気とともに歩んできたということの端的な証左といえる。写真評論家の飯沢耕太郎氏の話。

「1970年代中盤は、1960年安保が終わり、外に向いていたエネルギーが内に向けられた時代。北井一夫氏の農村を撮った『村へ』など、報道写真とは異なる“写真家の視線”が強く反映されるドキュメンタリー写真が大半でした。この流れが変わったのが1985年、南国のリゾートを撮影した三好和義氏の受賞です。バブルに向かう時代の空気を感じ、エンターテインメント性も評価されるようになった」

 1990年、魚や野菜などを使って作られたオブジェの写真集を発表した今道子の受賞で、かつては明確に区切られていた写真と現代美術の境界線が曖昧に。1990年代中盤以降はバブル崩壊など、混沌とした時代の中、賞の審査基準にも大きな変化が生まれていく。

「日本社会の閉塞感の打破という考えもあったのか、写真表現の拡張を目指し、様々な受賞者が現われます。2000年の長島有里枝氏、蜷川実花氏、HIROMIX氏の女性3人同時受賞は、多くの女性写真家に影響を与えた。デジタル化による写真の加工表現の許容、2003年の澤田知子氏のように自身でシャッターを切らない手法も認められた。もはやこの賞は、写真を媒介とした表現者全体を評価する賞といえるかもしれません」(飯沢氏)

「写真は時代を映す鏡である」とよくいわれるが、歴代の受賞作を見ると、それも頷けるのではないか。

※週刊ポスト2014年3月7日号

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