ソーシャルメディアといえばフェイスブックやツイッターなどを思い浮かべるものだったが、最近では無料通話アプリのLINEなどが注目を浴びている。ソーシャルメディアビジネスの視点からみると、それらにはまだ潜む新しい可能性があると大前研一氏が解説する。
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最近はフェイスブックやツイッターよりも無料通話アプリのLINEやViber(バイバー)の成長ぶりが報じられているが、ソーシャルメディアビジネスの視点から見れば、それらもまだまだ発展途上にある。
たとえば、利用者数が世界で3億7000万人を突破したとされるLINEは、アマゾンや楽天やヤフーに対抗すべく、eコマースに参入しようとしている。しかし、私はLINEはeコマースより「動員」や「誘発」の分野をもっと進化させるべきだと思う。
すでにLINEはクーポン配信やセール告知などによる集客や動員のためのサービスを展開しているが、そこに時間や位置情報、需給状況などの要素を組み合わせることで、企業やユーザーにとってもっと便利な使い方が提案できるのではないかと思うのだ。
わかりやすい例を挙げると、ドーナツ店が「今から30分以内に来て、この画面を提示してくれたら、ドーナツ1個無料で差し上げます」という情報を発信したら、おそらく瞬く間に行列ができるだろう。あるいは、コンサートや映画で開演15分前になっても3割以上の空席があるというような場合に「この画面を持ってきた人は無料(または半額)で入場できます」とやれば、すぐに満席になるだろう。
レストランやホテルも同様だ。つまり、「今」「ここ」でレストランやホテルを探しているお客さんがいるとする。彼らに向けて、まだ席が空いている近所のレストランが「先着○組限定で全メニュー3割引き」という特典を出したり、空室があるビジネスホテルがカプセルホテルよりも安い2000円くらいの料金を提示したりすれば、お客さんが殺到するに違いない。
これはすなわち、時間を関数として需給状況に応じて料金を変動させる「リアルタイム・プライシング」「ダイナミック・プライシング」というもので、スーパーやデパートの生鮮食品売り場が、午後7時を過ぎたら翌日に持ち越せない商品の安売りを始めるのと同じ手法である。
今はレストランなら食べログ、ぐるなび、ホットペッパー、オズマガジンなど、ホテルなら楽天トラベル、一休、じゃらんなどのeコマースに情報を出しているわけだが、それらはあくまでも“凍った情報”であり、リアルタイムの情報ではない。
だが、LINEをリアルと連動させて“生きた情報”を提供すれば、確実に利用者の一部をつかまえて行動を誘発することができ、eコマースよりもはるかに大きなビジネスチャンスが生まれると思うのだ。
※週刊ポスト2014年3月21日号