【書評】『ブラック企業VSモンスター消費者』今野晴貴 坂倉昇平/ポプラ新書/819円
【評者】福田ますみ(フリーライター)
著者は若者の労働相談を行うNPO法人を運営し、ブラック企業の実態や若者の労働環境に詳しい。この2人が焙り出したのが、一見何のつながりもないように見える、ブラック企業とモンスター消費者との深い因果関係だ。モンスター消費者のクレームは実は労働問題でもある、と著者はいう。クレームを理由にした解雇が増えているのだ。
フランチャイズのクリーニング店に勤めるパートの女性は顧客の理不尽なクレームに悩まされていたが、その顧客がフランチャイズの本部にまで苦情を持ち込んだため、退職を余儀なくされた。クレームを理由に本部は店にフランチャイズの解約を迫り、困った店が「あなたへのクレームのせいで契約が解除されるかもしれない」と女性に退職を迫ったのだ。
雇用側はクレームに対して適切な対策を取らず、逆に、女性をやめさせる口実に利用したのである。企業側が架空のクレームを捏造して、それを退職勧奨の理由にしている例もあり、ブラック企業ではこうした手口はめずらしくないという。
ここで重要なのは、私たち消費者は多くの場合、労働者でもあるということだ。消費者が過度のサービスを要求しクレームをつければ、雇用側はそのニーズに応えるためにさらに無理をする。しわ寄せは末端の労働者が被り、労働条件がますます過酷になる。ミスが起こりやすくなりクレームも増えるという悪循環に陥る。悪質なクレームは巡り巡って自分たち労働者の首を絞めることになるのだ。
“お客様のために”というおもてなし精神は雇用側に都合がいい。介護職や居酒屋などの低賃金、重労働の職場では、しばしば「感情労働」という現象が起きる。「ありがとうを集めるため」「顧客の笑顔が見たいから」といった類の口当たりの良い言葉を上から繰り返し唱和させられるうちに、「労働の目的は金ではない」と感化させられ、長時間のサービス残業を厭わなくなる。これこそブラック企業の思う壺だ。
著者はこうした現代の“奴隷労働”を防ぐために、労働時間の規制はもちろんのこと、仕事の内容と範囲を明確化した労働契約を制度化すべしと主張する。そして消費者も、過度なおもてなしを当たり前と思うのではなく、その裏で悲鳴を上げている労働者の存在に思いを致すべきだろう。
※女性セブン2014年3月27日号