トーマス氏はエイタン隊長から作戦の詳細を取材しており、『週刊ポスト』に対して「アイヒマンを捕まえたのはエイタンであり、マルキンがアイヒマンと交流したことも絶対にない」と語ったうえで、特番のことを伝えた際のエイタン氏の言葉として、「くだらない番組を作ったNHKとは話もしたくない」とのコメントを明かした。
また、NHK特番の1年前には英チャンネル4がエイタン氏の証言を元に拘束劇の再現ドキュメンタリーを放映したこと、世界最大のナチス追及団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」のブライトバート資料センター所長(当時)の「アイヒマン拉致チームのリーダーはエイタン氏だった」との証言、イスラエル政府広報オフィスが「作戦について最も信頼できる本」としたイッサー・ハレル元モサド長官の著書に、隊長としてエイタン氏の名が記されていることなどを報じた。
ところが、当時のNHKの対応は驚くべきものだった。制作責任者のチーフ・プロデューサーが取材に応じたものの、「エイタンはもちろん知っているが、作戦の一メンバーであり隊長ではない」と言い張ったのである。しかも当初は「モサドに確認した」「ハレル長官までいきました」などと説明していたものの、後に「ハレル氏には取材を断わられた」「モサドには取材依頼したが応じてもらえなかった」などと前言を翻した。
つまり、マルキン氏の言葉を鵜呑みにして番組を作ったことを半ば認めたわけだが、それでも最後まで「隊長はマルキンであってエイタンではない」という主張を変えず、番組の検証も訂正もしなかった。それどころか、記事発売後に『週刊ポスト』編集部に抗議までしてきたのである。
本人の言うままを信じ、客観的検証をせず、過剰なまでの演出でドキュメンタリーをドラマチックに仕立てるやり方は佐村河内氏のケースとそっくりだ。これがNHKの体質ならば、他にも同様の番組が存在する可能性は高い。
※SAPIO2014年4月号