物語は、昨年関連事業室長に抜擢された環のもとに、帝都事務サービスの〈安原常務〉らが抗議にやってくるシーンで始まる。同社は40近くある子会社の中でも、帝都本体に代わって総会屋対策等、〈裏の役割〉も担ってきた直系だ。が、頭取は着任早々この〈癌細胞〉を処理する方針を打ち出す。突然の事態に憤る安原相手に、環のキャリアは反発を買う材料にしかならない。

 平成元年にようやく女子総合職の採用に踏み切った帝都に入って20年。出世の王道をゆく環は後輩たちの憧れで、〈私もそういう汚れ仕事を任されるようになりたい〉と言う明日香や、〈組織の裏の部分も含めて一緒に支えていく仲間となってもらいたい〉と、自分を抜擢してくれた上司の期待にも応えたい。

 が、離婚以来、仕事に生きてきた環には、東大進学に最後まで反対した母の〈会社が一生あなたの面倒見てくれるわけじゃないんだから〉という苦言も、最近は妙に突き刺さってならないのだ。

「我々公務員は比較的性差が少ない方ですが、保守を自認する同行で環が受ける嫉妬は相当深刻だろうし、私生活では合コンもままならない。僕の友人も3分の2は学内で結婚した気がするし、環の母親が言うように東大出の女性を煙たがる空気は実際あるとは思う」

 帝銀事務サービスの解体は、安原らが隠蔽してきた〈恥部〉の処理と同時に、200名の従業員の解雇を意味した。しかも徹底処理を掲げる頭取派に元会長派は度々横槍を入れ、顧問弁護士を務める石田はかつて自分を酷い形で捨てた初体験の相手! が、憎き彼と仕事をする中で、環は仕事や人生について次第に手がかりを掴んでいくのである。

 ちなみに石田の名は晃嗣。三島由紀夫『青の時代』のモデルにもなった光クラブ事件(昭和24年)の山崎晃嗣と字も一緒だと、彼自身が言う場面がある。東大法学部在学中に高利の投資会社を興すが結局は破綻。非業の自殺を遂げたアンチヒーローに、掴みどころのない石田の姿はどこか重なる。

「彼はもっとわかりやすい悪漢にした方がよかったという御指摘も頂くんですが、権力志向の高い企業弁護士として5億もの年収を稼ぐ一方、カンボジアで地雷除去の事業化も夢見る石田は、仕事でも女性関係でも単に勝ちたいだけの無邪気な男として描いたつもりです。

 環にそれは贖罪のつもりかと問われて〈俺にも分からん〉と彼が言うように、両義性が同居してこそ石田。面白いのは環との過去に関しても、『この程度の失恋を恨み続ける環の方がおかしい』と、むしろ女性読者の方が寛大なんです」

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