過去のしがらみやひずみを乗り越えるには、誰かが軋轢を承知で新たな地平を切り拓く他はない。一方で誰しも守りたいものはあり、独身の環ですら怯むのだ。
「でも別に家族がいるから正義を貫けないわけじゃないと思うし、事あれば組織を守る覚悟を踏み絵のように問われ、そのくせ自分を守ってくれるわけでもなくなった今の組織で働く大変さは、女も男も変わらない。今は純粋に会社を立て直そうとした善意の行為が背任罪で告訴される時代ですからね。その中で多少は計算もしながら融通無碍に生きていく普通の人間を、僕は書いていきたいんです」
環の目を借りて描かれるのは組織人全てが直面するこの国の今だ。本業とアプローチこそ違えど、やはり制度と人の関係に彼の関心はある。
【著者プロフィール】
芦崎(あしざき・しょう):1960年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、大蔵省入省。税務署長、大使館、金融庁、内閣官房勤務等を経て、現在財務省大臣官房参事官。日経小説大賞の第2回、第4回と最終選考に残り、昨年3回目の応募となる本作で晴れて大賞を受賞。「それまでは妻にも言わずに深夜コソコソPCに向かう日々。1作目は性描写もあったので、娘にバレないかヒヤヒヤでした(笑い)」。中学高校時代は硬式テニス部に所属。180cm、60kg、O型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年3月28日号