ライフ

誰かと一緒にご飯を食べるとセロトニンが分泌され幸せ気分に

 ベストセラー『がんばらない』で知られる鎌田實医師は、食べることが大好きなのだそうだ。ボランティアなどで訪れる東北やイラク、チェルノブイリなど様々な場所で食事した体験から、人と一緒にご飯を食べる幸せについて鎌田氏が語る。

 * * *
 僕は食べることが大好き。特にB級グルメには目がない。小さい頃はとても貧乏だったので、ご飯が食べられるだけで嬉しかった。

 母は心臓病を患っており、入院していることが多かった。父はタクシーの運転手。仕事柄、夜中まで家に帰ってこない。家にはテレビがないので、テレビを観させてもらいに近所の家によく行った。

 テレビを観ている時間帯に、そこのおばさんが夕食の支度をしていて、茶の間にいいにおいが漂うようになると、居づらくなる。

「テレビ、楽しかったです。おばさん、ありがとうございました」と言って帰る。また観させてもらうためには、こうすることが大切だと子どもながらにわきまえていた。

 家に帰っても誰もいない。寂しいし、怖いし、お腹はすいている。なんとなく後ろ髪をひかれつつ、足をひきずるように帰ろうとする。よほど悲しそうにみえたのだろう。おばさんが見かねて「實ちゃん、ご飯食べていきなさい」と声がかかる。

 涙が出るほど嬉しかった。おばさんは5回に1回は僕にご飯をご馳走してくれた。これを5回に3回にできないだろうかと考えた。

「おばさん、おいしいです」
「こんなにおいしいものを食べたことはありません」

 と言うと、おばさんは嬉しそうな顔をして、

「實ちゃん、またいらっしゃい」

 そう言ってくれた。僕はそれ以降、どんなものを食べたときにも「おいしい」と3回は言うようになった。

 2月末に石巻に入ったとき、ボランティアの仕事がひと段落して、みんなで打ち上げをしていた。すると顔見知りのばっぱが牡蠣を2キロも持って来てくれた。これをみんなでカキフライにしたり、てんぷらにして食べた。

 僕らとばっぱの間には温かな思いが通い始める。僕たちは一緒にご飯を食べているうちに、隠れた何かが動き始めるのだろう。

 福島でも支援に入ると、携帯電話に何本もの電話が入ってくる。

「夕飯はウチで食べていけ」

 刺身を持ってきてくれる人、お酒をぶら下げてくる人、僕の好物と知っていてホッキ貝の炊き込みご飯を作ってきてくれる人。おいしいものを食べると絶望の中でも楽観する力が出てくる。絶望を突破する力もわいてくる。一緒にご飯を食べると幸せホルモンのセロトニンが分泌されて生きる力もわいてくる。

 今月上旬、『下りのなかで上りを生きる~「不可能」の時に「可能」を見つけろ』(ポプラ新書)を上梓したが、苦しいときに生き抜くための6つの力、「楽観力、回転力、潜在力、見通す力、悲しむ力、突破する力」について書いてみた。

 他人とワイワイ言いながらの食事は、僕たちに大きな生きる力を与えてくれることだけは間違いない。

※週刊ポスト2014年3月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
クマ対策には様々な制約も(時事通信フォト)
《クマ対策に出動しても「撃てない」自衛隊》唯一の可能性は凶暴化&大量出没した際の“超法規的措置”としての防御出動 「警察官がライフルで駆除」も始動へ
週刊ポスト
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下主催の「茶会」に愛子さまと佳子さまも出席された(2025年11月4日、時事通信フォト)
《同系色で再び“仲良し”コーデ》愛子さまはピンクで優しい印象に 佳子さまはコーラルオレンジで華やかさを演出 
NEWSポストセブン
「高市外交」の舞台裏での仕掛けを紐解く(時事通信フォト)
《台湾代表との会談写真をSNSにアップ》高市早苗首相が仕掛けた中国・習近平主席のメンツを潰す“奇襲攻撃”の裏側 「台湾有事を看過するつもりはない」の姿勢を示す
週刊ポスト
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
NEWSポストセブン