“落としても割れないグラス”が売れている。ひとつ2200円という価格にもかかわらず、当初販売予想数の3倍を売り上げるという絶好調ぶりだ。製造元は、医療用カテーテルやリモコンのスイッチなどに使われているシリコーン素材の加工メーカー、信越ポリマー。そう、このグラス、シリコーンでできているのだ。
見た目は重厚感のある透明なグラス。だが、柔らかいシリコーン製のため、テーブルから落としても割れることはない。
「当社のシリコーン製グラス『シュプア』は、『割れない』こと以外にも大きな特長があるんです」
開発を担った同社SR開発部SR開発第二グループの中田和哉は、そう説明しながら『シュプア』に熱いコーヒーを注いで差し出した。ガラス製のグラスなら熱くて持てそうにないが、『シュプア』は素手で持つことができる。
「シリコーンはマイナス30度からプラス200度までの耐冷・耐熱性を持つため、熱い飲み物を入れても平気です。しかも熱伝導率が低いので、表面が熱くならないのです」
この『シュプア』の開発がスタートしたのは2012年のこと。当時巷(ちまた)では、電子レンジで調理できるシリコーン製蒸し器が大きな話題になっていた。だがシリコーンを知り尽くした中田は、それらの製品に物足りなさを感じていたという。
「カラフルですが、一見してシリコーンだとわかってしまいます。さらに独特な臭いが残っているものが多い。ウチならもっといい製品が作れるのになぁと思っていました(笑い)」
まず試作したのは「電子レンジでご飯が炊けるシリコーン製炊飯器」である。
だが試作を繰り返すうち、炊飯器だとご飯の炊き上がりばかりが注目され、シリコーンのよさをアピールするという肝心の目的がぼやけてしまうことに気づいた。
そこで中田は、社内の製造現場にも意見を募ることにした。集まった提案のなかに、目をひくものがあった。それは「ガラスのように透明なシリコーン製グラス」というものだった。