人間ドック学会が4月4日、血圧やコレステロール値、肥満度などについて行なった大規模調査の中間報告を発表。そこで、現在の健康診断で採用されている健康基準値と大きく差がある「新基準値」が公表された。
例えば血圧の場合、これまでは上(収縮期血圧)が130以上、下(拡張期血圧)が85以上なら「血圧が高い」と診断されてきた。それが、今回公表された新基準値では大幅に緩和され、上は147まで、下は94までは正常値であるとされた。最も従来の数値とかけ離れているのが、いわゆる「悪玉コレステロール」とされてきたLDLコレステロールで、現基準では120未満が正常とされたが、新基準では男性の上限が178、高齢女性では190まで拡大された。
そうなると、「今の基準は一体、何なのか?」と疑問が出てくるのも当然だ。現行の基準は、各分野の専門学会が算出したもの。例えば高血圧の基準値は「日本高血圧学会」が定めた高血圧治療ガイドラインに沿うものだ。
算定の根拠は何か。日本高血圧学会事務局に聞くと、「欧米を中心とした複数の研究レポートに、健康に有益な血圧の範囲についての調査結果が出ている。それらを体系的、総合的に勘案して導き出したのが基準値です。多岐にわたる研究調査を参照した数字なので、ひと言で説明するのは非常に難しい」という。
だが、この策定の仕方そのものに懐疑的な研究者も少なくない。高血圧や高脂血症、糖尿病などの予防治療を専門とする医学博士で新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が指摘する。
「私は血圧関連の複数の学会のガイドラインに示されている基準値の根拠となる文献をすべて精査しました。しかし、その中に正常値の数値がきちんと明記されている文献はひとつもなかった。学会が発表する基準値の根拠は、専門家の目から見てもわかりません」
たしかに血圧の上限〈130〉、LDLコレステロールの〈120〉、総コレステロールの〈200〉、中性脂肪の〈150〉、肝障害の指標になるγ-GTの〈50〉、肥満度を表わすBMIの〈25〉など、今の基準値は素人目にも“キリがよすぎる数字”である気がしてしまう。
東海大学名誉教授の大櫛陽一・大櫛医学情報研究所長もこう指摘する。
「日本の現在の基準値は、年齢はおろか性別さえ分かれていない項目が大半です。20歳の活力に満ちた男性と、80歳のおばあさんが同じ基準で判断されるのは、あまりにも不自然だ」