同じモンスター系でも、2000年代後半に流行った「モンスターペアレント」や「モンスターペイシェント(患者)」は様相が異なる。それらにも誇張や作為が混じっていたはずだが、一方でまだ言葉になっていない事実をうまく捉えた造語だったから、今でも使われているし、その概念の下で学校や病院がクレーマー対策を講ずるなどしている。
比して、「モンスター新人」は、番組制作者の感覚だけで放たれた造語に思えてならない。しかも、そのセンスが明らかに時代からズレていて、ここぞとばかりにネット世間から叩かれてしまうのだ。
なぜズレるのか。これは私の直感だが、テレビ番組の制作者の日常が、一般世間から遊離しすぎているからだ。
びっくりするような高い給料をもらって、芸能人なんかとも仲良くしちゃっている日々だから? 違う。それはテレビ業界の中のごくごく一部であるキー局の正社員の話で、彼らは番組をつくってなんかいない。いわゆるテレビ局員は、系列の番組制作会社の管理他で忙しい。
では、その系列の番組制作会社の社員たちがズレているのか。それもまだ違う。番組づくり自体は、もう10年以上前から、テレビ局の下請けのそのまた下に位置する孫請け会社の社員たちが担っている。彼らは、番組制作の必要に応じて現場に集められる派遣労働者として働いている。
テレビ業界ピラミッド構造の下層に位置する孫請け会社の制作者たちは、まさしくワーキングプアだ。
つい先日、その当事者から話を聞いた。月収は手取りで14~15万がアベレージだという。なのに、仕事が非常に激務かつ急用も多いため、テレビ局にすばやく駆けつけられるよう都心に住まざるを得ない。安い物件を探し出しても、賃料が月に6~7万かかる。必然、貯金は増えない。基本的に昇給もない。先のことを考えたら怖くなるが、今現在の仕事をこなすことで精一杯なので、なんとかやっていられる。
そういう状況にある人たちが、ピッカピカの大企業の世界では「モンスター新人」的な若者が増えていると、どこかで耳にしたら……。それは、人情としてムカッときておかしくない。「残業代を気にする」だなんて、フザケルナと思うだろう。お笑いネタにして、気持ちを晴らしたくなるかもしれない。弱い者がさらに弱い者を叩く、といったように。
もちろん、その弱い立場にいる者だからこそ持てる反骨の精神だってありえるのだが、「だから誇りを持って頑張れよ」とは私には言えない。そんなキレイ事は口にするだけ虚しい。
そのかわりに、「もう下手はこくな」と言いたい。「モンスター新人」の企画を立てて番組にした制作者は、見事なまでに下手をこいたのだ。余計なお世話だけれども、そういう話なのだと思う。