ビジネス

「モンスター新人」を特集したテレビ局の「歪んだ構造」分析

 残業代を気にする「モンスター新人」の是非を問う声がネットで大きい。なぜ残業代を気にしてはいけないのか。コラムニスト・オバタカズユキ氏はそこにテレビの世界の歪んだ構造をみる。

 * * *
 ここ最近、ネットで「モンスター新人」という造語を見かけることが多い。唐突に出回った感があるので、なんだろうと確かめてみると、テレビでそういう番組が放送されたせいだった。

 4月4日にフジテレビの情報番組が、4月29日にTBSのバラエティ番組が、それぞれ「モンスター新人」を特集にした。それらの番組で紹介されてたモンスターな新入社員のケースは、例えばこんなものだ。

・プライベートを重視しており、上司が飲みに誘っても断ってくる。
・遅刻や欠勤をしても平気で、連絡をするにしてもメール1本で済ます。
・やりがいのある仕事でも、残業代が出るかどうかをすぐに気にする。
・ロクに挨拶ができず、敬語も使えない。
・言われたことしかやらない。
・叱ると逆切れし、そのまま家に帰る。下手すりゃ、会社を辞めてしまう。

 番組ではスタジオの出演者たちが「モンスター新人」の再現ビデオを見て一方的に嘆いたり呆れたりしていた、わけではない。特にフジテレビのほうの出演者たちは、「わからなくもないよね」といった感想も交わしていて、その寛容さがむしろ意外なぐらいであった。

 しかし、刺激的な言葉というものは、そういうニュアンスなどを脱ぎ捨てて、一人で勝手に歩き出す。そして、ネット世間のさらし者にされる。

 私が見まわった限り、「モンスター新人」は評判が実に悪い。そんなイメージを勝手に作るなよ、マスゴミが、という調子で。特に「残業代を気にする」件に非難が集中している。気にして当たり前だろ、それをテレビが非難するような日本だからブラック企業がはびこっているんだ、という具合に。

 ネット用の記事でネット側に立つのは、どうも卑怯な気がしてためらうところもあるのだが、私もこの特集の台本をつくった番組制作者の感覚はズレていると思う。だいたいテレビを含めたマスコミは、ずーっと長いこと「サービス残業」問題をとりあげて、働く一人一人の意識が変わらなきゃいけないと言ってきたではないか。

 だったら、「残業代を気にする」≒「サービス残業を厭う」若者の出現は喜ばしい話で、少なくとも問題視するような件ではないのである。普通に考えてやはりそうなのだ。

 他の件でも、けっこうな違和感がある。「上司が飲みに誘っても断ってくる」と言うが、いまどきの若者を対象とした市場調査では、「上司と飲みたい」派が多いとの結果がいくつも出ている。「遅刻や欠勤をしても平気」「挨拶ができず、敬語も使えない」こと自体は問題だが、そういう人間を通した採用面接って何?

「言われたことしかやらない」件だって、「マニュアル人間」や「指示待ち人間」などの言い方で、もう30年以上前から批判され続けている。その主体性の足りなさは、老若男女を問わない現代日本人の国民性なのではないか。

「叱ると逆切れし、会社を辞めてしまう」のは困るだろうが、そういう火薬みたいな社員を抱え続けるのも大変だろう。会社的にはさっさと辞めてもらったほうが、リスクもコストも少なくて済むのではないか。

 というふうに、まあ、どの件も、どんどんサカサマの解釈ができてしまう。ここまでペラペラひっくり返される「モンスター新人」は、それだけ根拠が薄いのである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン
2025年10月末、秋田県内のJR線路で寝ていた子グマ。この後、轢かれてペシャンコになってしまった(住民撮影)
《線路で子グマがスヤスヤ…数時間後にペシャンコに》県民が語る熊対策で自衛隊派遣の秋田の“実情”「『命がけでとったクリ』を売る女性も」
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
文化勲章受章者を招く茶会が皇居宮殿で開催 天皇皇后両陛下は王貞治氏と野球の話題で交流、愛子さまと佳子さまは野沢雅子氏に興味津々 
女性セブン
各地でクマの被害が相次いでいる(右は2023年に秋田県でクマに襲われた男性)
「夫は体の原型がわからなくなるまで食い荒らされていた」空腹のヒグマが喰った夫、赤ん坊、雇い人…「異常に膨らんだ熊の胃から発見された内容物」
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
相次ぐクマ被害のために、映画ロケが中止に…(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
《BE:FIRST脱退の三山凌輝》出演予定のクマ被害テーマ「ネトフリ」作品、“現状”を鑑みて撮影延期か…復帰作が大ピンチに
NEWSポストセブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン