スポーツ

町田樹の人生哲学「心を整えたいときは部屋を片付けます」

「一流とはどういうことか」を読書から学ぶという町田樹選手

 ソチ五輪の昨シーズン、芸術性の高い演技と、個性豊かな語録で注目を集めたフィギュアスケートの町田樹選手。五輪には遠いと思われていた“第6の男”の位置から一気に駆け上がりソチ出場、続く初出場の世界選手権では銀メダルを獲得した。“結果を出す男”“言葉を持っている男”の哲学とは?

「競技も人生も、本にインスパイアされてきた」と語る町田選手に、本と、フィギュアと、町田樹の深い関係を聞いた。(後編:人生編)

* * *
■“一流”から学ぶ 本番で力を発揮する方法

 言葉を大事にするという町田選手は大の読書家である。『エデンの東』や『白夜行』など、愛読書からインスパイアされたプログラムを披露してきた。選手としての姿勢や生き方も、本から学ぶことが多いという。

「一流とはどういうことか、ということをよく考えます。僕はフィギュアスケーターとしても、人間としても一流になりたい。そのためにいろんな考え方や生き方を知りたくて本を読みます。

 たとえば『外科医 須磨久善』(海堂尊著)は折にふれて読み返す大切な本です。須磨先生は日本初の心臓難手術『バチスタ手術』を行った方。海堂さんは大、大、大好きな作家さんで、ほぼすべての本をハードカバーで持っている。須磨先生ご自身が書かれた『タッチ・ユア・ハート』ももちろん読みました」

 上記の本から学んだのは試合に臨む心構え、精神の落ち着かせ方。『チーム・バチスタの栄光』のモデルにもなった天才外科医の極意を、町田選手はどうやって自分のものにしていったのか。

「須磨先生は手術前に、あらゆる事態を想定すると書かれています。そうすると自ずと悲観的な考えになるのですが、悲観的なイメージを出し切ることで、次第にポジティブな方向へと変わっていくと。『手術前の扉に立つ瞬間には、絶対に成功するイメージをつかめるように流れをもっていく』と『外科医 須磨久善』にはあります。

 僕は以前は、試合前に、あの選手に勝つためにはジャンプの失敗は一回までとか、これくらいのスコア出さないと次につながらないとか、かなり考えていたんです。でも須磨先生の本を読んだこともあり、昨シーズンからは、練習と試合では“意識をスイッチ”するようにしました。

 練習では他選手を思い切り意識するし、スコアのことも緻密に考える。だけど、試合になったら一切忘れる。自信のあるプログラムを、心をこめてみなさまに届けることに一意専心する。練習の時はスポーツ選手だけど、試合では演技者として氷に立つようになりました。

 他にもいろいろ影響を受けています。僕の知ってる一流の方は“空間”を大切にしています。須磨先生も、場所や建築にこだわった病院を建てている。僕にとっても部屋は精神状態を表す鏡です。部屋が乱れているときは、たいてい僕の心が乱れているんですよ。

 そういうときは、心を整えなきゃと頑張るより先に、部屋を片付けちゃう。部屋がきれいになると心に作用して、おのずと落ち着いてくる。試合前などはホテルの部屋も自分のポリシーでいい空間に設えています」

 フィギュアスケートの練習にも本の影響があるという。ファンならご存知の町田選手のコンパルソリー練習。昨シーズン、町田選手が練習に取り入れたフィギュアスケートの基礎練習だ。

「須磨先生に限らず、偉人たちは基礎や初心を大切にしています。僕は伸び悩んでいた時期に何かを変えないといけないと考え、もう一度、基礎を学び直すことにしました。土台を広く頑丈にすれば、その上に積み重ねられるものが増えると考えたのです」

■嫌い嫌いといいながら、嫌いなものを食べつづける

 心臓外科医の頂点に至った須磨氏だが、初めてバチスタ手術を行った患者は手術後に死亡。大いなる悲嘆にくれた。だが須磨氏は諦めなった。須磨氏を慕う町田選手の場合はどうか。スポーツにはつきものの“失敗”への対処方は。

「失敗は成功のもと、と当たり前のように言われますが、本当にその通りだと思います。20年のスケート人生を振り返ると失敗の方が多い、というより、失敗だらけ。だから落ち込んでいるわけにはいかないんです。スケートに限らず、どんなに努力して準備しても、結果を完全にコントロールすることはできません。成功したとしても、自分でつかみとった面もあるでしょうが、偶然性も否定できない。

 だから僕はこう考えるようにしています。起こってしまったことは偶然かもしれないけど、そこから何かを学び取ることは必然だと。そしてこの考え方も海堂さんの作品から学びました。

 僕の場合は、なぜ失敗したかを分析して、同じ失敗をしないように心掛けます。言ってみれば一つの失敗は、同じ失敗をしないための失敗。一つ失敗することで、失敗をする可能性が一つ減ったと考える。一方で、成功の後は必ず落とし穴が待っています。これは僕の甘さゆえでもあるのですが。だから昨シーズンは、グランプリシリーズで優勝してもすぐに優勝は捨て去ったし、世界選手権の銀メダルにも依存してはいけないと考えています」

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
結婚を発表したPerfumeの“あ~ちゃん”こと西脇綾香(時事通信フォト)
「夫婦別姓を日本でも取り入れて」 Perfume・あ〜ちゃん、ポーター創業の“吉田家”入りでファンが思い返した過去発言
NEWSポストセブン
(写真右/Getty Images、左・撮影/横田紋子)
高市早苗首相が異例の“買春行為の罰則化の検討”に言及 世界では“買う側”に罰則を科すのが先進国のスタンダード 日本の法律が抱える構造的な矛盾 
女性セブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン